コラム

英政府の密航者対策は「ナチスと同じ」残酷さと、あのリネカーが大批判して議論沸騰

2023年03月08日(水)19時03分
サッカー番組の司会者ゲーリー・リネカー

現在はサッカー番組の司会者として活躍するゲーリー・リネカー(2022年4月) Action Images via Reuters/Carl Recine

<納税者負担は1日10億円近く...。保守党の政策への賛否と、公共放送BBCの「政治的中立」問題にイギリスが揺れる>

[ロンドン]英仏海峡を密航してくる不法入国者の小型ボートを阻止するためスエラ・ブラバーマン英内相が発表した不法入国者対策法案について、1986年サッカーW杯メキシコ大会得点王で元イングランド代表主将のゲーリー・リネカー氏が7日、ツイートで「内務省の誰かが内相を後押ししたようだ。この法案はほぼ間違いなく違法だ」と厳しく批判した。

リネカー氏は「不法(違法)」と「入国者対策法案」を2段に分けた英政府のサムネイルを「法案の実態に相応しい名前だ」と皮肉った。ブラバーマン内相が「もうたくさんだ。ボートを止めなければならない」と新しい法案を説明する動画を添付して「なんてことだ。これはおぞましいを通り越している」とも書き込んだ。

リネカー氏は年俸135万ポンド(約2億2000万円)の人気司会者だ。英公共放送のBBC放送では週末のサッカー番組『マッチ・オブ・ザ・デイ』や試合解説を担当している。人間味とユーモアあふれるリネカー氏の解説は幅広い支持を集め、BBCだけでなく、BT、アルジャジーラ、米NBCなど世界のスポーツ番組に引っ張りだこだ。

受信料制度に支えられるBBCは「政治的中立」「公平性」を守る代わりに政府からの独立が認められている。与党・保守党幹部は「常識外れ。サッカーに専念しろ」と批判し、BBCの広報責任者は「彼は自分の責任を思い起こすことになる」とリネカー氏にイエローカード(警告)を出す見通しだ。政権が公共放送を支配しようとするのは日本も英国も変わらない。

この2年間小型ボートによる密航が500%増加

ネット上の「あなたは安全で比較的快適に暮らしているかもしれないが、流入で荒廃した地域はどうなのか」という反論にリネカー氏は「巨大な流入はない。他の欧州主要国と比べ英国の難民受け入れ数ははるかに少ない。1930年代の(ナチス)ドイツと変わらない言葉を使い、最も弱い立場の人に向けられた底知れない残酷な政策に過ぎない」と言葉を叩き返した。

ブラバーマン内相の両親はモーリシャスとケニアから1960年代に英国に渡ってきたインド系「二度移民」で、リシ・スナク首相と同じルーツを持つ。旧植民地時代、インドは大英帝国の安い労働力の供給源だった。19世紀に蔓延した貧困と飢餓から逃れるため多くのインド人が年季奉公労働者となり、大英帝国の植民地に定住した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

再送-〔ロイターネクスト〕米第1四半期GDPは上方

ワールド

中国の対ロ支援、西側諸国との関係閉ざす=NATO事

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円以外で下落 第1四半期は低

ビジネス

日本企業の政策保有株「原則ゼロに」、世界の投資家団
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 3

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 4

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story