コラム

放送法「行政文書」問題が浮き彫りにする日本の封じ込め体質──内部告発は悪か

2023年03月09日(木)18時45分
内部告発

内部告発そのものが疑問視されるのは、国際的にみても特異なこと(写真はイメージです) Lightspring-shutterstock

<国際的にみても日本は内部告発者を守らない国だ。不正を告発することが権利として認められていても、実質的に保護する仕組みはない>


・日本は諸外国と比べても内部告発者に冷淡な制度しかなく、これは問題の隠蔽をエスカレートさせる体質につながってきた。

・放送法の解釈変更をめぐる内部文書の公表を受け、内部告発者を特定するべきという意見は与野党にある。

・それは内部告発によってしか明らかにされない疑惑や問題を抑え込もうとする圧力になりかねない。

放送法の解釈変更をめぐる総務省の内部文書が公開された問題は、はからずも日本が「内部告発者に冷たい国」であることを、改めて浮き彫りにしたといえる。

「内部告発者が問題」なのか

総務省は3月7日、安倍政権時代の放送法をめぐる官邸とのやり取りに関する内部文書を公表した。

その内容は立憲民主党の小西洋之議員がすでに公表していたものと同じく、2014年から2015年にかけて安倍元首相や当時の高市早苗総務相、礒崎陽輔首相補佐官らが政権批判の目立つTBS「サンデーモーニング」など個別の番組を念頭に、TV放送の「政治的公平」に関する法解釈を強引に変更して規制を強めようとしたと示唆するものだった。

高市氏はこれを「捏造」と強調しているが、総務省が行政文書と認めたことで、疑惑はかなり濃くなった。

詳しい経緯は他に譲るとして、この問題で注目すべき点の一つは、与党以外からも「行政文書作成の経緯や明るみに出た経過、その趣旨や目的についての精査が必要」という主張があがった点だ。

なかでも国民民主党の玉木雄一郎代表は「ああいう形で行政文書が安易に外に流出すること自体は、国家のセキュリティ管理の問題としてはもちろん問題」と主張し、賛否はともかく多くの人の関心を集めた。

結論的にいえば、こうした論調は一歩間違えれば「内部告発者が問題」となりかねず、それは国際的にみても特異な日本の封じ込め体質を助長するものといえる。

内部告発しか選択肢がない方が問題

大前提として、内部情報を何でも表ざたにすることは認められないだろう。官公庁でも民間企業でも、あるいは我々のような個人事業主でも、守秘義務が守られるという信頼がお互いになければ契約すらできない。

しかし、その一方で、多くの人にかかわる深刻な問題が内部情報によって初めて「問題」として認知されたことも、数え切れないほどある。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story