コラム

放送法「行政文書」問題が浮き彫りにする日本の封じ込め体質──内部告発は悪か

2023年03月09日(木)18時45分

最近の例では、ロシアやカタールで行われたFIFAワールド杯の選定で大規模な買収があった疑惑も、関係者のリークで初めて表面化した。Facebookから大量の顧客情報が流出し、それが2016年アメリカ大統領選挙に影響を及ぼしたことも、内部告発をきっかけに明らかになった。

東京五輪をめぐる多くのスキャンダル、民間企業で相次いだ検査データ改ざん問題、自衛隊の南スーダン日報の隠蔽など、日本でも同様の問題は多い。

今回の問題に関していえば、内部情報が流出したことよりむしろ、重大な疑惑が内部告発によってしか表面化しなかったことの方が、健全なガバナンスという意味でよほど大きな問題といえる。

政治的意図が問題なのか

さらに玉木代表は「ある場合には政治的意図を持って、こういうリークが行われて、我々が大きく振り回されてしまう」とも述べている。この「政治的意図」とは、来月の統一地方選挙が念頭にあるのかもしれない。

いずれにせよ、「公益のためというより、特定の者のためにリークが行われたなら問題」という趣旨は一見もっともらしいが、仮に政治的意図があったとしても、それが問題とはいえない。

今回の内部告発は日本の報道の自由に関わる問題だ。日本は報道の自由で先進国中最低レベルと評価されている。各国の報道の自由を比較する「報道の自由ランキング」で日本は180カ国中71位と、アフリカのモーリシャス(64位)やケニア(69位)より低い。

この状況の暗部を告発するリークが「公益に反する」と考えるなら話は別だが、玉木代表も今回の内部告発の内容そのものの重要性は否定していない。とすると、仮に内部告発者が何らかの政治的意図を持っていたとしても、それと公益は両立すると認めざるを得ないはずだ。

ところで、政治家は特定の政治的信条や意見に従って行動するものだ。そもそも何を公益と捉えるかは立場によって異なり、そのなかで政治家は「自分たちが公益と考えるものの拡大」と「自分たちの政党の議席の増加」の両立を目指す。

今回の内部情報のソースは総務省関係者といわれている。だとすれば政治家ではないかもしれない。

しかし、政治家に認められている「公益と政治的意図の両立」が政治家以外には許されないというのなら、それはそれでおかしな話であり、政治的意図をことさら問題視することにどれだけの意味があるのか不明になる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

利上げの可能性、物価上昇継続なら「非常に高い」=日

ワールド

アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自

ワールド

アングル:印総選挙、LGBTQ活動家は失望 同性婚

ワールド

北朝鮮、黄海でミサイル発射実験=KCNA
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story