World Voice

England Swings!

ラッシャー貴子|イギリス

プレミアリーグ初観戦でアウェイの洗礼を受ける

 こうして案内された席は、わお! と叫びたくなるほどよい席だった。

D787AAA3-84BD-46BE-A0AB-B4BB5051C1D7.jpeg

この日観戦した席からの景色。テレビ中継とほぼ変わらないアングルだった。試合ではスタジアム中がほぼアーセナル一色だったけれど、わたしから見て右側、ゴール裏とバックスタンドの間の角に、全体と違う動きをする人たちがいた。明らかにマンUのサポーターが集まっている。後でサイトで確認すると、やはりそこはアウェイのサポーターが集まる区画だった。いろいろ決まりがあるんだなあ。筆者撮影

 チケットを渡してくれたときのマイケルの口ぶりから、よい席なのだろうと予想はしていたけれど、それにしてもメインスタンド2階のほぼ中央というすばらしい席だった。テレビ中継とほぼ同じアングルで観戦できるし、斜め下の足元には選手の入退場口もある。後ろ姿とはいえ、両チームの監督が立っているのもよく見える。バーやショップでVIPのような扱いも受けたことだし、ここは会員向けの特別な席なのかと思ったけれど、後でマイケルに聞いてみると、単に「値段の高い席」ということだった。アーセナルでは有料会員でないと具体的なチケット代が確認できないのだけれど、たとえば同じプレミアリーグのチェルシーFCで同等の席の値段を調べてみると259ポンドだった(約4万円、対戦相手や日時によって変わる)。この席のシーズンチケットなら数千ポンド(ざっくり言って数十万円)はするんじゃないかしら。もっとかな。

 わたしたちの席のすぐ横は(ピッチの中央にあたる部分)は、セレブリティが招待される関係者席だった。その場では興奮していて気づかなかったけれど、この日は英国サッカー界のレジェンドのひとり、デヴィッド・ベッカム、イングランド代表監督のギャレス・サウスゲート、マンUの伝説の名監督、アレックス・ファーガソンがここで観戦していたと、スポーツニュースを見て知った。ほんの10メートルぐらいのところにそんな大物が座っていたというのに見逃してしまった。あああ、残念。

92A2DD22-2993-4F4C-8EED-5B75F5BA6080.jpeg

隣にあった関係者席。この日のようにサッカー関係者が座ることもあるし、ロイヤル・ファミリーや各界のセレブもここで観戦するようだ。試合前にそれを知っていたら、もっとよく見張っていたのに! スポーツニュースの映像でファーガソン元監督におじさんが話しかけていたのだけど、わたしはそのおじさんをバーで見かけたのだった。あの彼も大物だったのかな。関係者席は、やんごとなきお方をお迎えすることもあるからなのか、シートは革張りのように見えたし、ここではひざ掛けも貸してもらえるようだった。筆者撮影

 わたしたちの上の階はボックス席のようだった。企業などが所有するプライベートな空間で、食事も出るそうだ。なんて優雅なんだろう。サッカー観戦というよりオペラ鑑賞のようだ。

 いろいろな席はあっても、満員のスタジアムのほとんどがアーセナルのサポーターで埋めつくされ、あちこちでの応援が繰り広げられていた。なかでもゴール裏の1階席にいた30人ぐらいの集団は、試合前から太鼓を叩いたり大声を出したりして気勢を上げていた。わたしの席から見るとそのあたりだけが揺れてうねっていて、ものすごいエネルギーを感じた。

8EAA5D56-C0DB-4395-A351-CD4FFD52EE5D.jpeg

席には広告入りの厚紙を折って作られたハリセンが置かれていた。もちろん頭をたたくわけではなくて、応援用だ。確かにハリセンを使えば手を叩くより簡単に大きな音が出る。サポーターも満足してやたらに壁や椅子を叩いたり蹴ったりしないだろうからスタジアムも助かる、というウィンウィンの解決策だ。下の方の席でもこのハリセンを使っていたので、たぶん全員に配られたのだと思う。筆者撮影

 さて、いよいよキックオフ。同時にスタジアム中でアーセナルへの熱い応援が始まった。この日わたしが座った「高額な席」には小さな子どもを連れた家族もずいぶんいて、アグレッシブな雰囲気はなかったけれど、それでもスタジアム全体で「アーセナル! アーセナル!」というコールやお決まりのチャントが始まればほとんどの人が加わっていた。スタジアム全体がひとつになった声の大きいこと、怖いこと! あんなに大きな音量で人間の声を聞いたのは生まれて初めてだった。感激もしたけれど、わたしがアーセナルのサポーターでないせいか、身の危険を感じるほどだった。何か違うことを言ったら殴られそうな気がして。

 ちょっとしたプレーもしっかり観て、まるで生きるか死ぬかという勢いで喜んだりけなしたりする。ほのぼのしていた女子の試合とは段違いの迫力だ。「まあ、まあ、たかがサッカーだから落ち着いて」とでも言ってあげたくなる。サッカー観戦が大きな憂さ晴らしになるというのも、「戦争の代わり」と例えられるのも、理解できる気がした。

 でもそんなわたしが、もし応援するマンUのホームスタジアムで試合を観たら、この日「怖い」と感じた集団側に加わるだろうか。アウェイでもホームでもないチームの試合だったらどうだろう。日本のJリーグの試合を観てもあの怖さを感じるのだろうか。もっともっと観戦して、それを経験してみたい。

 プレミアリーグに詳しい別の友人によると、スタジアムでは、太鼓や大声のチャントで応援するサポーターは、ある程度かためて配置するそうだ。もちろんどのチケットを買うかは本人次第なので、販売の時点では何もできないけれど、たとえばその友人がサポートするフラムFCでは、チケット購入者へのお知らせやメールマガジンなどで、「歌ったり太鼓を叩いたりしたい方は、この辺りの席を選ぶとさらにお楽しみいただけます」というように、次回に向けてそれとなく誘導するのだそう。なるほどねぇ。やっぱり席選びは重要なのだ。

Profile

著者プロフィール
ラッシャー貴子

ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。

ブログ:ロンドン 2人暮らし

Twitter:@lonlonsmile

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

あなたにおすすめ

Ranking

アクセスランキング

Twitter

ツイッター

Facebook

フェイスブック

Topics

お知らせ