World Voice

日本人コーヒー生産者が語るコロンビア

松尾彩香|コロンビア

出場逃したコロンビア W杯カタール大会への反応は?

©️iStock - bymuratdeniz

20日サッカーワールドカップカタール大会がついに開幕しました。人権問題やジェンダー問題、飲酒に関する文化の違いなどで様々な批判が集まっている今回のワールドカップ。2014年ブラジル大会、2018年ロシア大会と2連続で出場していたコロンビアですが、今回のカタール大会では南米予選を勝ち残ることができず残念ながら出場を逃しています。私がコロンビアに渡ったのは2018年の6月。日本がコロンビアに歴史的な勝利を収めた直後でした。街中がワールドカップ一色で、コロンビアが勝利すると黄色いユニフォームを身にまとったサポーターたちがチアホーンを吹きながら道路をパレードのように練り歩き、爆竹が絶えず鳴り響いていたことをよく覚えています。予選リーグ敗退が決まった時はコロンビアの全サッカーファンが肩を落としましたし、私も大会中のお祭気分の街の様子が見られないのはとても残念ですが、ワールドカップ不参加の影響は国民の気分だけにとどまらないようです。

 

店が儲からない!

コロンビアでは多くの人がサッカーを家ではなくバーやレストランなどの飲食店で、近所の人たちと一緒に観戦します。ローカルのカフェやパン屋は店先にテレビを引っ張り出し椅子を並べ、地元の人々はそこに集まり飲み食いしながら試合を観戦するのです。また、飲食店だけでなく試合がある日は小さな商店でさえも店先に観戦用の椅子をならべることも珍しくありません。そうすることによってお客さんはポテトチップスや缶ビールを購入しその場で試合を観ることができるからです。タクシーの運転手や警察官ですらも試合中は仕事を中断し、最寄りのお店で足を止め試合を観戦するほど、サッカーの試合がある日というのはローカルの小さな商売を営む人にとっては利益を上げる絶好のチャンス。実際に2018年のロシア大会では、大会期間中にビールの売り上げが37%、酒類20%、炭酸飲料12%増加したというデータもあります。またテレビの売り上げが19%増加したり、国民の60%以上が応援のためにユニフォームを購入したというデータもあり、ワールドカップの予選敗退というのは飲食業に限らず様々な業界にとって4年に1度の売り上げアップのチャンスを逃したということになるのです。

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2018年W杯にて。ショッピングモール内で観戦するコロンビア人たち(筆者撮影)

 

アーティストはボイコットすべき?

今回のワールドカップは過去に行われたワールドカップとは違い、開催国カタールの人権問題が開幕前から大きな問題となっています。今回のワールドカップ開催を支持しないという意思表示のために、フランスのいくつかの都市ではパブリックビューイングを実施しないことが決定している他に、欧州の予選大会ではファンによって「ボイコットカタール」の横断幕が貼られるなど、とにかく揺れに揺れている今回のカタール大会。この大会に招待された歌手が参加するか拒否するかという点もコロンビアでは今大会の注目テーマの一つだったようです。例えば人気アーティストのデュア・リパやミュージシャンのロッド・スチュワートは人権問題を理由にカタールには行かないことを表明しましたが、コロンビアの人気アーティスト シャキーラも今回カタール大会の出場を拒否したことで話題になりました。彼女の楽曲「WAKAWAKA」は2010年FIFAワールドカップの公式テーマソングとして使用されており、ワールドカップとの繋がりが強いアーティストとして認識されているシャキーラですが、開会式の数日前に「カタールには行かない」と正式に発表したのです。

一方この流れに乗らなかったのがコロンビア出身のレゲトンシンガーMaluma(マルマ)。イケメンで若者を中心に人気が高いマルマですが、一方で女性を軽視した歌詞やビデオクリップが度々批判をよんでいるお騒がせシンガーでもあります。今回大物アーティストが次々とカタールの人権問題を理由に出演を辞退しているなか、マルマは前日に行われたイベントや開会式にも姿を現しカタール大会をサポートする姿勢を見せ波紋を呼びました。さらに開会式前日に行われたインタビューではマルマがとったある行動が注目を集めています。このイスラエルのメディアによって行われたインタビュー内で、インタビュワーはマルマに「人権問題の観点から出演を拒否するアーティストが相次いでいますが、人々は『マルマはこの国の人権について問題に感じていないのか?』と思っていますよ。」と著名人のボイコットについてコメントを求めます。マルマはこれに対して明らかに不快な表情を浮かべながら「ええ。でもこれは私には解決できない問題ですから。私は人生やサッカーを楽しむためにここに来ているんです。この問題に私は関わる必要はないんです。」とコメント。しかしインタビュワーは食い下がることなく質問を続けたところ、機嫌を損ねたマルマは「あなたは失礼だ」と言い残しマイクを置いてインタビューを中断しその場を後にしてしまったのです。いつも何かと言動が批判されてしまうマルマですが、この出来事に関してSNS上では「なぜFIFAに同じ質問をしないんだ?」「こんなくだらない質問にマルマが答える必要はない」と珍しくマルマを擁護するとも取れる意見も多く見られました。

開幕前から問題が絶えないカタール大会。スポーツを純粋に楽しみたい一方で人権問題を無視するわけにもいかず、どんなコメントを残すか、どんな行動をとるかで社会的にジャッジされてしまうデリケートなイベントになってしまいました。どのように大会が進んでいくか、終わる頃には何かが変化しているのか、全く想像すらできませんが、一般市民の私は静かに大会を見守っていこうと思います。

 

Profile

著者プロフィール
松尾彩香

コーヒー農家を営む元OL。コーヒーを栽培する一方で、コーヒー農家の貧困や後継者不足問題、コロンビアでの生活についてSNSを通じて発信。朝の一杯のコーヒーに潜む裏話から、日本ではあまり報じられないコロンビアの情勢まで幅広くお伝えします。2022年7月よりスペイン在住

ブログ: http://campesinita.com

Twitter: @maon_maon_maon

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