コラム

『続・激突!カージャック』はスピルバーグの大傑作......なのに評価が低いのは?

2024年04月17日(水)16時49分

ILLUSTRATION BY NATSUCO MOON FOR NEWSWEEK JAPAN

<スティーブン・スピルバーグ監督の『続・激突!カージャック』は、『ジョーズ』に並ぶ素晴らしい作品。現代アメリカのさまざまな断面を描き、ラストは何度でもかみしめたい>

スティーブン・スピルバーグの初期の傑作は何か。もしもそう聞かれたら、僕だけではなくほとんどの人は『ジョーズ』を挙げるはずだ。確かに『ジョーズ』は突出した傑作だ。映画としての強度が半端じゃない。いずれこの連載でも取り上げたい。

ならば、初期の傑作を2つ挙げろと言われたとしたら、あなたは『ジョーズ』と何を挙げるだろう。『未知との遭遇』を挙げる人も多いと思うけれど、スピルバーグの劇場第1作である(正確には、最初はテレビドラマとして制作された)『激突!』を挙げる人も少なくないはずだ。

キャストはほぼ1人。舞台はアメリカ西部の荒野を走るハイウエー。それなのに90分まったく飽きさせない。確かにこれは傑作だ。でも僕は『ジョーズ』に並ぶ傑作としてもう1つを挙げろと言われたなら、『未知との遭遇』や『激突』ではなく、あえて『続・激突!カージャック』を挙げる。






......とわざわざ回りくどい書き方をした理由は、この作品の評価があまりに低いから。というか、僕の周りでもこの作品を観た人はとても少ない。スピルバーグの主な作品で検索しても、リストから外されていることが多い。

その理由の1つを(怒りを込めて)書くが、邦題があまりにひどい。確かに『激突』は話題になった。でも『続・激突! カージャック』に、『激突』とのつながりは全くない。原題は『The Sugarland Express』。そのままでいい。百歩譲っても「続」はない。

窃盗の罪で収監されていたルー・ジーンは出所後に、やはり軽犯罪で別の刑務所に収監されていた夫のクロービスに面会し、福祉局の決定によって強制的に取り上げられた一人息子を奪還しようと提案する。でもそのためにはクロービスは脱走しなくてはならない。刑期の残りはたった4カ月だ。そう言って脱走に反対するクロービスにルー・ジーンは、ならば離婚よ、と切り返す。

こうして脱走したクロービスとルー・ジーンは、スライド巡査が運転するパトカーを成り行きでカージャックしてしまい、スライドに銃口を突き付けながら息子が里子に出されたシュガーランドに向かう。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story