コラム

韓国の大学がとった新型コロナ対策で起きた混乱

2020年03月19日(木)15時15分

もっとも手軽に動画配信をすることが出来るのはスマホを利用し、ユーチューブを通じてライブで講義を配信するという方式だが、ここでも大混乱に陥っている講義が散見された。

字幕を入れたり、資料を映したりすることができないというような技術的問題よりはるかに前の問題として、他学科、他校の学生や、あるいは一般人までもが乱入しイタズラを仕掛けたりして講義を妨害するようなケースが少なくないのだ。本来50名程度が出席する科目に800名以上の視聴者が集まり、講義に関する質問を受け付けるためのチャット機能で「きれいな女教授に変えてくれよ」、「ハンサムですね」といった冗談を繰り返したり、質問を受け付けるために公開した研究室の電話番号にいたずら電話を掛けた人も一人二人ではなかった。

在学生以外の参加を防ぐため、学校が運営するサイト内で、認証されている学生たちだけがアクセスできるようにした学校もあったが、接続者が同時に殺到したためにサーバーが麻痺しアクセスさえもできない事故が発生するなど混乱は続いている。スマートフォンやインターネットの普及率だけを考えれば、素晴らしいアイデアのように見えるオンライン講義だが、下準備もなしにスタートした結果、現場はいくつもの壁に全力でぶち当たる日々が続いている。

「学費を返せ」・・・学生たちの不満

突然のオンライン講義に振り回されているのは大学と、その教員たちだけではない。春の訪れとともに楽しい大学生活が始まると期待していた新入生、そしてもちろん新学期を待っていた在校生たちの不満も高まっている。オンライン講義に当初ある程度の混乱が生じるのは仕方ないとしても、「放送大学と何ら変わらないオンライン講義しかしないのであれば授業料を安くすべきじゃないのか?」という不満が続出しているのだ。

例えば、韓国を代表する私立大学の一つ、高麗大学の1年間の授業料は約826万ウォンだが、同大学のサイバー大学コース「高麗サイバー大学」の年間授業料は約226万ウォンと27%程度の価格だ。最初からオンライン講義中心のサイバー大学の場合、一度撮影した講義を繰り返し使うことが出来るし、大学の教室をはじめその他の施設の利用が少ないため、当然、一般の大学よりも授業料が安く設定することができるのだ。だが、大学側の事情はともかく、キャンパスライフを満喫できないサイバー大学と同じ条件なら、学費も同じように安くしてくれという学生たちの主張も理解できなくはない。

日本の場合、早稲田大学が授業開始時期を2週間延期するという発表があったが、今のところ他の多くの大学はコロナ感染症の情勢を慎重に見守り対策を練っているようにみえる。授業開始時期を延期したとしても、その分、夏休みの開始を遅らせるなど幾つかの対応方法が考え得ると思うが、安易な「オンライン講義」の導入は、混乱と不満を招くだけであることを韓国の例を反面教師として学べるかも知れない。

プロフィール

崔碩栄(チェ・ソギョン)

1972年韓国ソウル生まれソウル育ち。1999年渡日。関東の国立大学で教育学修士号を取得。日本のミュージカル劇団、IT会社などで日韓の橋渡しをする業務に従事する。日韓関係について寄稿、著述活動中。著書に『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)『韓国人が書いた 韓国が「反日国家」である本当の理由』(彩図社刊)等がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦合意に向けた取り組み、振り出しに戻る=ハマ

ビジネス

米金融政策は「引き締め的」、物価下押し圧力に=シカ

ビジネス

マクドナルド、米国内で5ドルのセットメニュー開始か

ビジネス

テスラ、急速充電ネットワーク拡大に5億ドル投資へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story