コラム

「専制国家・中国」にトリセツあり

2023年01月25日(水)15時30分

専制政治下の役人や大衆の考え方には独特の論理がある TINGSHU WANGーREUTERS

<相手の行動原理が分かれば、権威主義との付き合い方もわかる>

本当に中国人は分からない──とわれわれは思う。「中国のコロナはゼロに抑える。いいな」と上から命じられると、14世紀ペスト禍の欧州よろしく、1つの街区を閉め切ってしまう。住民が騒ぎ出し、黄巾の乱ならぬ「白紙革命」が起きるかという情勢になると、習近平(シー・チンピン)国家主席が「オミクロンは大したことではないのだ」と鶴の一声。すると、今度は一斉に門戸を開放し、海外にまで送り出そうとするから、周辺国はたまったものではない。

そこで水際の検査を強化すると、「中国だけを差別した」と言いがかりをつけ、日韓への査証発給を停止する。大衆もそれを支持する。本当に中国は度し難い......。

筆者はソ連、ロシア、そして中央アジアで合計15年ほど勤務した。専制政治下での役人、そして大衆の物の考え方には独特のものがある。ロシア人の場合、鼻息は荒いのだが、その裏には「西側」に対するコンプレックスが隠れていることが多い。「友人ならば、そこは見過ごしてくれ。メンツをつぶさないでくれ」とか「ロシアを差別しないでくれ」、あるいは「差別するのは、ロシアに対する悪意があるからだ」と、彼らは言う。

こういう相手には公の会談で面と向かって相手をなじり、是正を求めても、逆効果になる。会談の後の宴席のほうが大事で、できるだけ少人数の席で相手の領袖に対して問題を指摘し、両国関係のために解決していこうと持ちかけ、解決策を内輪で議論する。彼らは、世界でどう思われているかを非常に気にしている。メンツを維持できるなら、意外と話に乗ってくる。

日本も権威主義を引きずっている

相手の行動原理が分かれば、権威主義の国で勤務するのもまた楽しい。例えばスピーチをするとき、「貴国の大統領が常々おっしゃっておられるように」と枕詞を付ければ、権威主義を批判しようが、民主主義を称揚しようが、向こうの役人は何も言えない。大統領が西側向けのプロパガンダでそう言っているかもしれないので、うっかり否定することはできないのだ。

そして物事の実態は、言われているほどひどくはないときもある。例えば今回、中国は日本人への査証を出さないと言っているが、例外もある。「査証を出さない」というのは、日本が水際検査を強化したことに対して、習近平のメンツを守るという意味が強いのだろう。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story