コラム

文在寅は「反日」「親北」なのか

2017年05月31日(水)07時00分

対北朝鮮路線についても同様のことが言える。最近では、文政権に対して韓国の保守層の使う「従北(北朝鮮に従う)」という単語を、日本のメディアでも目にすることがある。

文在寅は北朝鮮との対話に意欲を見せており、そのため「北朝鮮を利する政権」とされているようだ。特に16年2月に操業が中断された、南北が共同運営する開城工業団地の再開について前向きであることに対する批判が大きい。そこで北朝鮮が得られた利益が、核やミサイル開発に利用されるのではないかという憂慮がある。

開城工業団地について注視すべき問題

しかし、北朝鮮は開城工業団地の操業が停止されても、それどころか国際社会から経済制裁を受けても、軍事開発を止めていない。むしろこの数年、核実験・ミサイル発射の回数は増えている。

北朝鮮の軍事開発が「制裁」というカード一枚で、解決できるような単純な問題でないことは明らかだ。

実際、米国もあらゆるカードを使い分けている。最近でも、米国のトランプ大統領は4月末に米韓軍事合同演習を終えた直後の5月2日に、環境が整えば「金正恩と対話する用意がある」とした。中国が部分的な経済制裁を発動しても、北朝鮮は東南アジアなどを経由しながら、外貨を手に入れ、独自のビジネスルートを築いてきた。こういった網の穴があることを熟知しているため、中国は常に経済制裁に慎重な姿勢を見せている。

また実のところ、韓国歴代政権の対北支援金は金大中13億4500万ドル、盧武鉉14億1000万ドル、李明博16億800万ドル(韓国統一部)で、保守政権と進歩政権を比べても大きな差がない。

開城工業団地については、もう一点注視すべき問題がある。

開城工業団地の工場は韓国の企業が運営し、そこに北朝鮮のスタッフが雇用されている。そのため操業停止による韓国企業側の損害は大きく、今年2月の段階で損失額は2500億ウォン(約250億円)とされ、合計でおよそ1000人の韓国人従業員が退職に追い込まれた。それら企業のほとんどが中小企業だ。

北朝鮮から外にでる機会のない人々が、開城工業団地の中で、韓国企業のスタッフとの接触や韓国製品を通じて、北朝鮮以外の世界に触れていたのも現実だ。人と物が動くことによって、北朝鮮に「外の風」が吹くことは、プラスの面が大きいのではないかと思う。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー

ワールド

焦点:中国農村住民の過酷な老後、わずかな年金で死ぬ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの文化」をジョージア人と分かち合った日

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 6

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 7

    「未来の女王」ベルギー・エリザベート王女がハーバー…

  • 8

    「私は妊娠した」ヤリたいだけの男もたくさんいる「…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story