コラム

タクシーが成長産業な訳──「客待ち」ではなく「創客」の時代へ

2022年01月27日(木)20時00分
タクシー

免許返納後の生活を支えるカギに(写真はイメージです) winhorse-iStock

<買い物、通院──免許返納者が増加する今日、工夫次第でタクシーの需要はまだまだ伸びる>

タクシーをはじめとするモビリティサービスの話題は、配車システム、自動運転、ダイナミックプライシング、AIデマンドなどデジタル革新の話が多い。しかし、売上増にはつながらず、ビジネスとして厳しいサービスも多い。

デジタル活用の前に、どんなニーズがあるか、どのような使い方や料金パックを提案できるのかを研究する必要がある。まずはタクシーの使い道、その提案の仕方の可能性を探ってみたい。

コロナで大きく落ち込んだ需要

タクシーの業界団体である全国ハイヤー・タクシー連合会は昨年11月の声明で、緊急事態宣言による観光客の激減、外出の自粛要請、テレワークの推進、飲食店への営業時間短縮要請などによって人の動きが止まり、甚大な影響が出ていると訴えた。需要回復は鈍く、当分の間、コロナ禍以前の水準に回復する見込みはないとしている。

国土交通省の「新型コロナウイルス感染症による関係業界への影響について」(2021年4月30日時点)によると、タクシー業界で運送収入が30%以上減少した事業者は76%、輸送人員は41%減った。資金繰り支援を92%の事業者が、雇用調整助成金を74%の事業者が受けてしのいでいる状況だ。

観光客、夜の飲食店利用者、出張中のビジネスマンをターゲットにしてきた事業者は苦境に立たされている。

一方、あまり大きな打撃を受けずに戻った需要もあるようだ。クルマの運転ができず、買い物や病院など、日常的な移動にタクシーを使う高齢者の需要だ。愛知県のタクシー事業者によると、新型コロナウイルスがどのようなウイルスか分からなかった昨年までは出控えが続いたが、2021年末時点で高齢者の需要はほとんど戻ってきたと話す。

同じタクシー業界でも、提供できるサービスの内容や質は異なる。車いすの乗降サポートができ、高齢者や障害者をはじめ地域住民を大切にしている事業者はコロナ禍にも強いようだ。

免許返納者が増え、高齢者の需要が伸びる

タクシーを日常的に利用したいというニーズは今後も堅調だ。

免許返納をする高齢者は年々増えており、今後さらに増加する見通しだ。警察庁の運転免許統計によると、2019年の自主返納者数(申請による運転免許の取消件数)は601,022人、2020年はコロナの影響を受けて前年より減少したとはいえ2018年以前よりも多く552,361人だ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story