コラム

担い手不足解消へ ローカル線の低コスト自動運転とBRT化で変わる地方の移動

2022年08月30日(火)13時05分

kusuda220830_2.jpg

スマートサポートステーション 筆者撮影

日本で鉄道の自動化が進まなかったのは技術的な理由からだけではない。JR九州との意見交換によれば、住民の理解を得ることが難しいという。

無人駅にしたことで裁判に発展したケースもある。

バスであれば段差があっても運転手がスロープを素早く準備できるが、地方の鉄道はバリアフリー化が進んでおらず、車いす利用者の補助など、いざという時に対応できない。無人駅でも専属のオペレーターが防犯カメラやインターホンなどで見守り、車いす利用者の介助対応ができるようスマートサポートステーションを設けているが、それでも住民の理解を得るのに時間がかかっている。

日本の駅では駅員をたくさん見かけるが、鉄道の自動運転を積極的に採用した欧州では見かけない。それでも鉄道を利用できるのは、それに見合った運賃や駅構造にしているからだろう。

日本では乗車区間の切符を買い、駅員に切ってもらうか自動改札機にICカードをタッチするが、欧米では駅に改札がないことが多い。乗車前にエリア切符を購入し、切符の確認を常時受けないシステムを採用してきた。ホームまでがスロープになっていたり、車両の段差や隙間が少なく、車いす利用者がひとりで乗り降りできる構造になっている。

このように車両だけを自動化するのではなく、鉄道のハードとソフトの両面から無人化のために整備する必要がある。クルマの自動運転の場合、新しい技術についてメディアで発信したり、乗車体験会を開催するなど、社会受容性を高めることに尽力している。鉄道でも同様に社会に向けて発信し、巻き込んでいく必要がある。

生まれ変わる地域交通

本数が少なく、中心街から外れた場所を走り、段差もあって乗り換えも必要な地方の鉄道は、足腰の悪い高齢者にとっては利用しづらい。

鉄道そのものの自動運転ではないが、廃線になる(なった)線路のクルマ・自転車・人の入れない敷地を生かして自動運転バスを走らせるという構想がある。

バスであれば鉄道と違って最新の車両を安く導入することもできる。また線路だった区間だけでなく、一般道でも走行できるため、学校や病院、スーパーなど乗客を目的地別に輸送することも可能だ。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story