原作者とモメる完璧主義者キューブリックの『シャイニング』は異質の怖さ
ウェンディ(シェリー・デュバル)が隠れるバスルームの扉をたたき割って顔をのぞかせたジャック(ジャック・ニコルソン)が「HereʼsJohnny!(ジョニーだよ!)」とうれしそうに言うシーンはあまりにも有名だが、なぜジャックではなくジョニーかといえば、米NBCで放送されていた『トゥナイト・ショー』でジョニー・カーソンが紹介されるときのフレーズをニコルソンがアドリブで言ったとの説がある。よくまあキューブリックの前でアドリブができたなあと思うが、何十回もテイクを重ねたらしいから、もちろん最終的にはキューブリックの判断だ。
最も怖かったのは、ジャックがずっとタイプしていた原稿をウェンディがのぞくシーンだ。何百枚もの原稿には、「All work and no playmakes Jack a dull boy(仕事ばかりで遊ばないとジャックはばかになる)」とひたすら書かれている。悪魔も幽霊も出てこない。それらしきシーンはあるが、精神を病んだジャックの幻想にも見える。一人息子のダニーが廊下で双子の少女と出会うシーンはあるが、それも事実かどうかは明確ではない。
観ながら思う。自分は今、ジャックの幻想を観ているのではないか。それが分からない。だから怖い。明らかにゾンビやスプラッタ系とは異質の怖さだ。
『シャイニング』(1980年)
監督/スタンリー・キューブリック
出演/ジャック・ニコルソン、シェリー・デュバル、ダニー・ロイド
<本誌2024年2月20日号掲載>
2024年5月28日号(5月21日発売)は「スマホ・アプリ健康術」特集。健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら
『ありふれた教室』は徹底的に地味、でもあり得ないほどの完成度だ 2024.05.08
『続・激突!カージャック』はスピルバーグの大傑作......なのに評価が低いのは? 2024.04.17
冤罪死刑を追ったドキュメンタリー映画『正義の行方』の続編を切望する理由 2024.03.19
ゾンビ映画の父ジョージ・A・ロメロは「ホラーで社会風刺」にも成功した 2024.02.28
原作者とモメる完璧主義者キューブリックの『シャイニング』は異質の怖さ 2024.02.17
シルベスター・スタローンの不器用さが『ロッキー』を完璧にした 2024.02.03