コラム

日銀新執行部で円安が進むか──雨宮正佳氏が新総裁となる場合の影響を考える

2023年02月07日(火)18時30分

円安ドル高が続く可能性は高くないだろう

これまでの金融緩和の成果もあり、 日本だけがデフレ不況に苦しんでいた2012年までと現在の状況は異なる。現行の金融政策の体制を変えるべきとの政治からの要請も大きくない。先述したとおり、10年前の日銀総裁交代の際はドル円市場は大きく動いたが、報道どおり雨宮氏が総裁となっても、為替市場でみられた円安ドル高の反応が続く可能性は高くないと思われる。

なお、仮に、リーマンショック後の停滞期に不十分な対応を続けた白川前日銀総裁を支えていた山口氏が新総裁となれば、金融政策のレジームを黒田体制以前に戻すという、岸田政権の意図が強いことを意味する。このリスクシナリオの可能性は低下したと思われるが、この場合為替市場では大幅な円高が続く可能性は高かっただろう。

報道どおり雨宮氏が新総裁となる場合、岸田政権が金融政策のレジームを維持する意図があるという点では、先述の初期反応を除けば短期的な金融市場への影響は限定的だろう。発足当初は、黒田総裁体制と同様の政策が続くとみられる。

新執行部で金融緩和の枠組み修正が早まる可能性も

一方、黒田総裁は、「2%インフレ目標の実現」の判断基準として、約3%の賃金上昇率(定昇除く)を重視しているとみられる。雨宮氏が、どの程度の賃金上昇が必要と考えているかは、現状明確ではない。この点について、黒田総裁の考えをすべて踏襲するか不確実な部分が残る。

今春の賃金上昇率が20年以上ぶりの伸びに高まると予想されるが、2%インフレを定着させる、3%の賃金上昇にまでは至るのは難しいだろう。この判断基準を雨宮氏が引き続き重視すれば、新執行部となっても日本銀行が、2023年中に長期金利ターゲットの撤廃など、金融緩和の枠組みを変え引締めに転じないと予想される。

現時点のメインシナリオではないが、雨宮氏が十分と考える賃金上昇のハードルは黒田総裁らと比べて低いかもしれない。黒田総裁の退任を機に、長期金利ターゲットの撤廃などの政策対応が前倒しになる可能性は決して低くない、と思われる。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。著書「日本の正しい未来」講談社α新書、など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story