コラム

プーチンの「静かな動員」とは──ロシア国民の身代わりにされる外国人

2023年03月07日(火)17時30分

逃れられない外国人

ロシア軍に入隊する多くの外国人の出身国である中央アジア各国の政府は、「外国での戦闘に関わること」を禁じている。

それでも中央アジア出身者の間からロシア軍入隊が絶えない一因には、ロシアに対する経済制裁がある。

経済制裁で(西側が期待するほどでなかったとしても)ロシア経済がダメージを受けるなか、外国人労働者ほどレイオフされやすく、これは結果的にロシア軍入隊を後押ししてきたのである。

また、例えばタジキスタンの場合、GDPの約1/4はロシア在住者からの送金が占めるなど、出稼ぎ者の送金に依存する経済構造もある。

とはいえ、当然ながら入隊を望まない外国人も少なくない。そのため、ロシア政府は拉致同然に外国人や移民を入隊させることさえし始めている。

今年初頭から(ロシア人の出国は可能なのに)ロシア国籍を持たない中央アジア出身者に出国が禁じられたばかりか、軍の徴兵所への出頭が命じられる事案が頻繁に報告されるようになった。

さらに1月13日、ロシア検事総長は「ロシア国籍を取得した中央アジア出身者は軍務に就く法的義務を負う」と発言したばかりか、「他の者より優先的にウクライナに派遣されるべき」とも付け加えた。

このような露骨な差別的対応があっても、一般ロシア人からは不問に付されやすく、中央アジア各国の政府が公式に抗議することはない。

こうして無理やり駆り出された兵員で頭数を揃えることが戦術的にどれだけ意味のあることかは疑問だが、それと同時にロシア政府による「静かな動員」は、非常時にマイノリティほど不利な扱いを受けやすいことも象徴するといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏大口献金者メロン氏、無所属ケネディ氏に追

ビジネス

米ターゲット、5000品目を値下げへ 買い物客呼び

ビジネス

JPモルガン、純金利収入予想引き上げ 軟着陸想定も

ビジネス

米レッドロブスター、連邦破産法11条の適用を申請
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 10

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story