コラム

春節を迎えた中国、「里帰り」は厳禁...「悪意ある帰郷者」は即座に拘束も

2022年02月02日(水)11時37分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
「悪意ある帰郷者」(風刺画)

©2022 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<春節が始まった中国だが、出稼ぎ労働者の里帰りは「悪意ある帰郷」として非難され、政府はビッグデータを武器に人々の行動を監視し続けている>

中国は2月1日に春節(旧正月)を迎える。この日の前に里帰りし、家族で一緒に年越しをするのは中国人の伝統だ。数億人の出稼ぎ労働者が生まれ故郷に帰る「春運」は、「人類史上最大の移動」といわれている。

しかし、今年はオミクロン株蔓延のため、各地の政府が「帰郷するな」と呼び掛けている。西側諸国で感染が爆発したとき、慌てて国に逃げ帰った中国人留学生たちは、「千里投毒(遠くから毒をまきに来る)」と批判された。

今年、あえて帰郷しようとする出稼ぎの人々は「悪意返郷(悪意ある帰郷)」と非難され、実家に帰った途端すぐに拘束される可能性もある。

感染対策として、当局はビッグデータも利用している。例えば、北京で出稼ぎをしている岳(ユエ)という中年男性が先日、新型コロナウイルスに感染した。当局は携帯電話のGPSシステム解析で得た彼の全ての行動過程をネットで公表したが、むしろ中国人を驚かせたのは、岳さんが毎日長時間、低賃金で荷物運びの過酷な労働をしていたことだ。

もともと岳さんは河南省出身だったが、十数年前から山東省威海市へ出稼ぎに行き、息子2人と妻の家族4人で暮らしていた。しかし一昨年、19歳だった長男が行方不明になり、すぐ通報したが、警察は3カ月たっても真面目に捜査しなかった。

納得できない岳さんは、かつて長男が働いていた北京で長男を捜しながら荷物運搬を続けた。ビッグデータの解析で捜し出すこともできるはずだが、警察は長男が既に成人していることを理由に拒否した。

もし岳さんが新型コロナに感染しなかったら、誰も彼に目を向けないし、関心も払わなかっただろう。感染のおかげで行方不明の息子は全中国に注目された。何とも皮肉だ。

「ウイルスはたった数粒でも電子手錠は10億」......中国人の間で静かに広がっている言葉だ。ビッグデータという「神器」を持つ政府は、政府の防疫対策に従わない者の動きを社会に公表し、社会の敵として扱うことができる。

中国政府の「感染者ゼロ」政策は新型コロナを撲滅できないが、中国人を従順にして「反対者ゼロ」を達成する可能性はある。今年、「悪意返郷」する中国人は少ないだろう。

ポイント

千里投毒
新型コロナの感染が世界に広がった2020年春、国外の留学先から都市封鎖で感染を抑え込んだ祖国に戻った中国人留学生がネットで浴びた言葉。「回国添乱(迷惑な帰国)」も。

严禁恶意返乡!
「悪意ある帰郷は厳禁!」。今年1月20日、河南省周口市鄲城県の董鴻(トン・ホン)県長が会議で「帰郷したらまず隔離、そして拘留」と発言。その映像がネットで批判された。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米4月雇用17.5万人増、予想以上に鈍化 失業率3

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能

ビジネス

債券・株式に資金流入、暗号資産は6億ドル流出=Bo

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇用者数
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story