最新記事

自動車

米当局、テスラのオートパイロット安全性調査を格上げ 83万台リコールの可能性

2022年6月10日(金)15時31分
テスラの「モデルS」

米道路交通安全局(NHTSA)は9日、米電気自動車(EV)大手テスラの運転支援システム「オートパイロット」を巡り、テスラ車83万台への調査を強化していると発表した。写真はテスラの「モデルS」。2015年10月撮影(2022年 ロイター/Beck Diefenbach)

米道路交通安全局(NHTSA)は9日、米電気自動車(EV)大手テスラの運転支援システム「オートパイロット」を巡り、テスラ車83万台への調査を強化していると発表した。新たなエンジニアリングの分析を進めているという。この種の分析はリコールを求める場合に事前に実施しなければならないとされている措置。

NHTSAは昨年8月、テスラ車の止まっていた緊急車両への衝突事故や、同様の内容の10件以上の事故を理由として、76万5000台を対象にオートパイロットの性能についての予備的な調査を開始。その後にさらに同様の事故6件を確認したという。

NHTSAは、運転者が注意を払うのをこうしたテスラ車が適切に担保しているかどうかを調べている。同局によると、調べている事故事例の大半で運転者は、注意を払わせるための機能の使い方を守っていた。このことから、機能の有効性についての疑念が生じているという。

米運輸安全委員会(NTSB)は2020年、オートパイロットのテスラ車による18年の死亡事故を受けて、運転者の動きを監視する機能の「効力がない」としてテスラを批判。NHTSAについても、監督を怠っていると指摘していた。

NHTSAによると、直近の調査は衝突についての現行の分析を強化し、追加のデータを評価する狙い。運転手自身がきちんと注意を払うことをオートパイロットがどの程度損ない、人間の行動上の安全リスクをどの程度悪化させているかを調べているという。

NHTSAによると、止まっていた緊急車両や道路工事車両に衝突したオートパイロットのテスラ車事故では死亡が1件、負傷が7件報告されている。調べている事例の大半で、前方衝突警告が作動したのは衝突のまさに直前で、自動緊急ブレーキが作動したのは衝突事故事例の半分程度にとどまっていた。オートパイロットの車のコントロール機能が解除されたタイミングは、平均して最初の衝突の1秒前よりも余裕がなかったという。

NHTSAによると、オートパイロットの衝突事故106件も調べており、このほぼ半数で、緊急の運転操作が必要な際に運転者が十分に反応できていないことが示唆された。

同局は事故に際して運転者が車の部品を正しく使っていても、正しい操作をしていなくても、あるいはメーカーが意図しない使い方をしていても、いずれにおいてもシステムの欠陥が存在する可能性が排除されないとしている。車両数が抑制される高速道路ではない一般道路や、雨や雪や氷など視界に問題がある際にオートパイロットの機能が制限されるかもしれないとテスラが認めている点も、調査の対象にしているという。

NHTSAは米ゼネラル・モーターズ(GM)やトヨタ自動車、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)など十数社の自動車メーカーにも運転支援機能についての質問を送っている。



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・イーロン・マスク、ツイッター買収に「謎のファミリーオフィス」を使っていた
・マスクのツイッター改革案「アルゴリズムのオープンソース化」で何が変わるか
・ウクライナでスターリンク衛星通信が提供開始 イーロン・マスクへの要請からわずか10時間半で
・イーロン・マスクのスペースX、宇宙で毎週1600件のニアミス事故


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国、最優遇貸出金利据え置き 市場予想通り

ワールド

米大統領選、不公正な結果なら受け入れず=共和上院議

ワールド

米大統領補佐官、民間人被害最小限に イスラエル首相

ワールド

ベゾス氏のブルーオリジン、有人7回目の宇宙旅行に成
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 7

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 8

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 9

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 10

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中