最新記事

ウォール街

AIG「強欲復活」は米景気回復のサイン?

金融危機のときの大規模救済で「株主が損害を被った」として、米政府を提訴しようとするAIGの論理

2013年1月9日(水)17時43分
タリア・ラルフ

盗人猛々しい AIGの背信に、納税者はカンカン Andrew Winning-Reuters

「偽善者賞」というものがあったとしたら、今年の受賞者はアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に決定だろう。

 AIGは金融危機のさなかの08年、総額1820億ドルの公的資金による救済を受けた(当時の金融機関に対する政府支援では最大規模だった)。倒産を免れ経営再建を果たせたのもひとえにこの救済のおかげなのだが、今やその救済条件をめぐって政府を訴えようというのだ。

 同社は9日に取締役会を開いて、連邦政府を相手取った250億ドルの株主代表訴訟に加わるかどうか検討する。ニューヨーク・タイムズによればこの訴訟は、08年の救済措置の条件は「不当」で、緊急融資に適用された高過ぎる金利は「株主から何百億ドルもの資産を不当に奪い、私有財産を補償なしに公的利用することを禁じる米国憲法修正第5条に違反する」と申し立てている。

 AIGの広報担当者は、同社取締役会は「受託者責任を最重要視している」と述べている。訴訟の先頭に立っているのは、AIG元CEOのモーリス・グリーンーグ率いる投資会社で、かつてAIGの主要株主だったスター・インターナショナルだ。政府はコメントしていない。

広告キャンペーンの皮肉な中身

 ニューヨーク州司法長官時代にAIGの不正会計を追及した元同州知事のエリオット・スピッツァーは、この訴訟を「国民に対する侮辱だ」と一喝。すぐさまAIGへの非難が巻き起こった。

 ニュースサイト「ザ・ヒル」によれば、エリザベス・ウォーレン上院議員(民主党)も今回の件を「とんでもなく非常識」と非難。「危機のただ中にあった彼らを助けようと差し伸べられた手を噛むような所業だ」と語った。

「AIGの無謀な賭けは、経済全体を破壊しかねなかった」と、上院銀行委員会の委員を務めるウォーレンは言う。「国中の納税者がAIGを破綻から救った。その企業が、救済措置が十分に寛大でなかったという理由で連邦政府を訴えるなどありえない」

 皮肉なことにAIGは今月、新しい広告キャンペーンを開始したばかり。金融危機の間、自分たちを支えてくれたアメリカ政府と納税者に感謝するという内容だ。

 ただ、ウォール街がかつての強欲さを取り戻したとすれば、それこそアメリカ景気復調のサインかもしれないが。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

訂正(14日配信記事・発表者側の申し出)シャープ、

ビジネス

中東欧・中東などの成長予想引き下げ、欧州開銀「2つ

ビジネス

英バーバリー、通年で34%減益 第4四半期の中国売

ビジネス

ABNアムロ、第1四半期は予想上回る29%増益 高
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 8

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中