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「アイデンティティ」を前に手が止まる日本人 自分が何者かを知るための第一歩とは?

2019年11月12日(火)17時35分
船津徹

大人になってから海外に(自分の意思で)出た人はまだいいのですが、親の海外転勤などで、自分の意思とは無関係にアメリカに連れてこられ、アメリカの学校に放り込まれた子どもは、クラスメートや先生から日本の文化や歴史について質問されるたびに「日本のことをよく知らない自分」に苦しむのです。

異文化の中で学齢期を過ごす子どもを「第三文化の子ども/Third Culture Kids」と呼びます。彼らは親の文化(第一文化)と、受け入れ国の文化(第二文化)の二つに適応していく過程で、第三文化と呼ばれる独特のブレンド文化を創造すると言われています。

第三文化の子どもの特徴として特定文化への帰属意識の薄さがあります。アメリカで暮らしているけどアメリカ人ではない。では日本人かと言えば、それもあまり自信がない。世界中のどこにも「ホーム」がない。どこにいても「アウェイ」感覚がつきまとい特定文化に同化できないのです。

一見すると根無し草のような、不安定さが伴う第三文化の子どもなのですが、視点を変えれば、国際リーダーとなる資質を秘めた人材とも言えます。多様な文化や価値観と共存していくことが求められる現代社会において、国境を越えたアイデンティティ(グローバルシチズンとも呼ぶ)を持つ第三文化の子どもたちが活躍できる場はあらゆる分野で広がっているのです。

ただ残念なことに、海外で暮らす日本人の子どもの多くが、自分のユニークなアイデンティティの価値に気づいていないのです。さらに言えば、特定文化に属せない自分をネガティブに捉えてしまうケースが多いのです。

アイデンティティクライシスの沼にはまる人へのヒント

江戸時代の日本は300藩(実際は270藩と言われる)によって成り立っていました。それぞれの藩には、それぞれの文化や習慣や価値観があり、それぞれの政治、経済、教育システムがありました。今の概念で言えば「独立国家」に近いものであり、藩の一歩外は外国という雰囲気だったのです。

江戸時代の日本は極めて「多様性の高い国家」だったのです。EUのように、独立した国が集まって一つの共同体を形成していたわけです。これは大昔の話でありません。たかだか今から150年ほど前の日本です。

明治維新後、中央集権体制が確立され、国内の統制をスムーズにするために日本の隅々まで標準化が進みました。その結果、日本人は自分のアイデンティティを「日本人」と考えるようになったわけです。

自分のアイデンティティに迷ったとき、時代を少しだけ巻き戻して考えてみると面白くなります。たとえば父親が青森出身で、母親が岩手出身でしたら、その子どもは「津軽と南部のミックス」です。当時、津軽と南部は犬猿の仲だったそうですから、国境を越えた禁断のラブロマンスがあったわけです。ちょっと前の日本は「みんな同じ日本人」ではなく、一人ひとりが異なるバックグラウンドを持ったユニークな存在だったのです。

実はこれ(私の塾に通学している)エッセイで悩む日本人学生にアドバイスするときに話すネタです。自分の中にある多様性(ユニークさ)に気づいてもらうきっかけとして両親の歴史を調べてもらうのです。

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