最新記事

日本社会

妊娠して気づいたのは、「マタニティマーク」が全員に無視されることだった...

2023年07月01日(土)18時00分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

つわりのしんどさと社会的自我が、24時間刺すか刺されるかのデスマッチを繰り広げている初期妊婦の実情が、いっさい反映されていない。紅白の小林幸子の衣装くらいの派手さでいくか、せめてお好み焼きくらいのサイズにした方がいいのではないか。

「優先席に、このマークの人には席を譲りましょうって書いてあるよ」
「そもそも俺、座席に座らないし」

たまげた。夫は街で困っている人を見かけたらすぐに助けるような優しい人間なのだが、それでもこのマークが目に入らないと言うのだ。

「だって俺、学校の授業でも『これがマタニティマークです』なんて習わなかったよ。たぶん、子どもを持つことにならなければ一生知らなかったんじゃないかな」

もしかして、電車で妊婦に席を譲らない人の中にはマタニティマークの存在を知らない男性も多くいるのではないだろうか。

社会から切り離されている妊婦という存在

「じゃあ、どうしたらいいの? まじでゲロ吐く五秒前だから、浴びたくなかったら譲ってくれって書いたフリップボードでも持ち運んだらいい?」

「いや、ヘルプマークでいいんじゃないの? どっちにしろ助けが必要な人、という意味では変わらないし、席を譲って欲しい理由をいちいち人に伝える必要なんてないしね」

いや、しかし。そもそも、こんな話をわざわざしなくてはならないほど、妊娠と社会が切り離されていること自体が、とてもいびつではないだろうか。

私はまるで自分の体が限りなく透明になった気がした。この社会の中での初期妊婦の居づらさはいったい何だろうか。

流産のしやすさから周囲に公表もできず、体調は最悪なのに仕事はフルスロットルで回り続けているので休むわけにもいかない。

しかし、そのことにいきりたったり、疑問を呈したりする余裕もなく、初期の数週間はとにかくこの具合の悪さをどうにかせねば、生きてゆくことすらままならない。

自宅で仕事をしている私なんかはまだ良いほうで、このいちばん孤独でいちばんつらい時期にまるで「妊娠していません」といった顔で出勤し、今まで通りの生活を営まなければいけない外で働く女たちはもっと大変ではないか。

妊婦の妊婦性を限りなく抹消しないと仕事を続けられないような、この現代社会の労働のシステムは、果たして健全なのだろうか?

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ

RANKING

  • 1

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 3

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 4

    「高慢な態度に失望」...エリザベス女王とヘンリー王…

  • 5

    なぜメーガン妃の靴は「ぶかぶか」なのか?...理由は…

  • 1

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 3

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    エリザベス女王が「誰にも言えなかった」...メーガン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 3

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 4

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 5

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:インドのヒント

特集:インドのヒント

2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり