最新記事

差別

日本人の無自覚な沖縄差別

2016年11月4日(金)19時00分
安田浩一(ジャーナリスト)

 米軍出撃基地だったという事情も含め、沖縄にとってベトナム戦争は遠い場所の出来事ではない。

 そのベトナム戦争時、米兵は現地住民を「Gook」と呼んでいた。「土人」を意味するスラングである。占領期の沖縄でも使われていた時期があるという。

 そこには支配と服従の関係を強いる植民地的視点が内在している。有体に言えば、人間として「同格」であることを拒んだ言葉でもある。

 沖縄は、そうした視線にさらされてきた。米国からも、そして日本からも。

 かつて大阪や東京でアパートの大家が「琉球人お断り」の貼り紙をするのは珍しいことではなかった。就職差別もあった。ネット上にはいまでも沖縄を侮蔑、差別する言葉があふれている。歴史をさかのぼれば、琉球処分のころから、沖縄は蔑まされてきた。差別は連綿と続いている。

 沖縄出身で、大阪において「関西沖縄文庫」を主宰する金城馨氏は「土人発言も日本人の意識の問題ですよ。日本人がずっと持ってきた、沖縄へのまなざしが具体化されただけ」と突き放すように答えた。

「沖縄を下位に置くことで、本土の優越意識が保たれているんじゃないですか」

「土人」発言が問題となったとき、沖縄の新聞各紙が「人類館事件」を引き合いに、けっして風化されることのない沖縄差別を論じたのは当然だった。

人類館の「七種の土人」

 1903年、大阪で内国勧業博覧会(大阪万博)が開催された。当時、万博は近代国家を誇示するための重要なイベントだった。1851年にロンドンで初めての万博が開催されて以降、各国は競うように万博を開催した。19世紀は「万博の時代」でもあった。1867年のパリ万博には、日本からも幕府、薩摩藩、佐賀藩が初参加した。近代の波に乗り遅れるなと、日本で最初に万博が開催されたのは1877年。「万国」と銘打つほどには参加国を集める資力がなかったので、正確には内国勧業博覧会とした。その5回目の内国勧業博覧会が大阪で開催されたのである。会場となったのが現在の天王寺一帯だった。

 会場正門前、現在の通天閣近くの場所には、政府所管以外の民間パビリオンが並べられた。

 そのひとつが「人類館」である。

 当時の「人類館設立趣意書」には次のような記載がある。

<異種人即ち北海道アイヌ、台湾の生蕃、琉球、朝鮮、支那、印度、爪哇、等の七種の土人を傭聘し其の最も固有なる生息の階級、程度、人情、風俗、等を示すことを目的とし各国の異なる住居住の模型、装束、器具、動作、遊藝、人類、等を観覧せしむる所以なり>

 要するに──台湾先住民、アイヌ民族、沖縄人、朝鮮人、インド人、インドネシア人、中国人といった生身の人間を「七種の土人」として展示、見せ物にするという企画である。

yasuda03.jpg
内国勧業博覧会が開催された天王寺周辺。現在は天王寺公園、動物園になっている Koichi Yasuda

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」=

ビジネス

中国BYD、メキシコでハイブリッド・ピックアップを

ワールド

原油先物は上昇、カナダ山火事と米在庫減少予想で

ワールド

プーチン大統領の5期目初訪中、西側へ対抗を確認へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 4

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 10

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中