最新記事

不法移民

困っている難民や移民に手をさしのべるのは罪?──仏憲法評議会が判断

2018年7月9日(月)18時30分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

フランスとの国境で、イタリア警察と対峙する難民と活動家たち(伊ヴェンティミリア、2015年) Eric Gaillard-REUTERS

<不法滞在であろうとなかろうと、人道的な見地から難民や移民に食事や寝る場所を提供する自由は保障される、という画期的な判断は、EU全体に影響を及ぼしそうだ>

南フランスの国境地帯では、昨年だけで2万9000人の不法難民移民が警察の手でイタリアに追い返されている。市民レベルでも、難民を支援する運動がある一方で、山地を抜けて密入国する難民をつかまえては追いかえす組織もある。極右政党国民戦線(現国民連合FN)や中道右派の共和党が陰で応援しているのだ。

サッカーのフランス代表がウルグアイに勝利してワールドカップ(W杯)準決勝進出を決めた7月6日、「難民と移民の権利の尊重と、とくに彼らを助ける人にとって非常にポジティブな一歩」と、人権団体アムネスティ・インターナショナル・フランスが呼ぶニュースがあった。

「博愛の原則」が「連帯の罪」に勝ったというのだ。

「連帯の罪」とは、密入国してくる移民たちを車で運んだり、宿や食事を提供して支援したりすることに最高5年の懲役または3万ユーロの罰金を科す外国人入国滞在法典第622-1条の俗称である。本来はブローカー対策なのだが、人道的な活動に対しても適用されることがある。そのとき、こう呼ばれる。

憲法評議会(憲法院とも訳される)が、これを現行憲法の「博愛の原則」に違反していると判断したのだ。

憲法評議会は、ドイツの連邦憲法裁判所と同じように法律などの違憲性を判断する機関で、違憲判断がでた条文は無効になる。フランスの法律を見るとよく「憲法評議会の決定により削除」と書いてある。

不法移民を宿泊させたら有罪?

昨年2月、イタリアとフランスの国境に近い谷間でオリーブ農家をしているセドリック・エルーさんと仲間のピエール=アラン・マノニさんは、ニース裁判所で、3000ユーロの罰金刑をうけた。エルーさんはすでに何度か逮捕され、そのつど釈放されていたが、2016年10月に、空き家になっていた国鉄の保養所を占拠してエリトリア人とスーダン人など50人(一説には200人)を宿泊させたところ、共和党の地元議員から批判を受け、警察に踏み込まれ、起訴、有罪判決を受けた。

8月に開かれた控訴審では、エックス・アン・プロヴァンス控訴院は、エルーさんに執行猶予付4カ月、マノニさんに執行猶予付2カ月の禁固と第1審よりも重い刑を宣告した。

外国人入国滞在法典第622-1条には2012年から例外がつくられ、難民移民の家族が支援する場合や、人道的活動として対価なしに「人としての尊厳と適切な生活条件を保つための法的な助言や食事、宿泊施設や医療およびその他のあらゆる人としての威厳や肉体的十全性を保つための援助」を行うことは免除されている。ところが控訴審は、エローさんは確かにブローカーのように金銭的な対価は受けていないものの、当局が実施する検査から外国人を逃れさせる運動の活動家であり、法律の規定への抗議行動の一部でもあるので、「活動家としての対価」を得ていると評価した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

グリコ、システム障害で売上高200億円下振れ 業績

ワールド

ロシア、旧トヨタ工場で高級車「アウルス」生産へ プ

ビジネス

訂正トヨタの今期、2割の営業減益予想 成長領域など

ビジネス

日経平均は反落、前日高の反動売り トヨタ決算は強弱
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中