最新記事

欧州

ブレグジットを先延ばしにする、イギリスのわがまま三昧

2019年6月4日(火)14時00分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

そうこうするうちにEUがリスボン条約第50条に規定した離脱期限が迫った。その時点では、もう「合意なき離脱」しかないのである。それがルールだ。にもかかわらずそれは嫌だと期限を延長させた。

要するに、お金は出したくない、既得権は欲しい、離脱による経済的打撃は自分のせいにされたくない、等々のわがままでダラダラとしてきたのである。

そもそも合意の最後のネックとなっているアイルランドの北と南の国境問題も、英国がシェンゲン条約に入れば国境は自由に行き来できるようになるので即、解決だ。アイルランドが同条約に入っていないのはイギリスが入らなかったからだ。ただし、そうなると移民難民も入ってくる。イギリスはそれもイヤだ。

実は、フランスで難民キャンプができたり、英仏トンネルを通るトレーラーの荷台に不法移民が乗ろうとしたり線路の上を歩いたりして事故が起きているが、彼らのほとんどは英語圏の人々で、イギリスをめざしてきている。ところが、イギリスが鎖国しているために、対岸のフランスで大きな問題が起きている。ちなみにトレーラーについていえば、難民や移民が荷台に勝手にもぐり込んでいると、運転手までが罰せられる。

マクロンは最後まで延長に反対だった

イギリスの身勝手に振り回されているだけだ。

4月12日にフランスのレゼコー紙に元IMF専務理事で、セックススキャンダルがなければフランソワ・オランド元大統領に代わってフランス大統領になっていただろうといわれるドミニク・ストロスカーン氏が寄稿をしている。

彼は、2回目の国民投票が考えられないのであれば、離脱しなければならないと主張する。もちろん、「合意なき離脱」はEUにもイギリスにも大きなコストがかかるが、先延ばしする方がはるかに高くつく。「ブレグジットはいかなるコストがかかろうとも迅速に行われなければならない、そしてEUは我が道を歩み続けてなければならない。延期の繰り返しなどの生温く優柔不断な態度は、子供たちの自由な未来のために我々が築いてきた唯一のチャンスを危うくするものだ」

まったくその通りである。現在のように中途半端なままだと関係企業は離脱と残留の両備えが必要で余計な負担がかかっている。第一、3月末でスパッと離脱せずに10月末までの延期を決めたために、離脱したら資格を失う議員を選ぶためにイギリスは欧州議会選挙を行わなければならなくなり、多くの無駄金をつかっている。

マクロン大統領は、離脱延期に反対してEUで孤立してしまったが、EUの規定通りにすぐに離脱すべきだというのは正論なのである。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中