最新記事

東日本大震災10年

福島第一原発事故10年、担当相だった細野豪志氏の「反省」と「課題」

2021年3月11日(木)15時04分
長岡義博(本誌編集長)

hosono-invu02.jpg

東電本店で記者会見する細野豪志・環境相兼原子力行政特命担当相(当時、2012年5月) Tomohiro Ohsumi/Pool-REUTERS


――選挙区でもない、担当の役職にいるわけでもない。東北に関わらなくても、誰も批判しない。それでも、この問題にかかわり続けるのは?

細野:最大の理由は一番初めに関わったから。これはもう、1つの運命です。もともと私は阪神淡路大震災で政治を志したんです。(福島第一の)原発事故の中で、正直に言って当時の政治家の中で腰が引けた人もいた。私はルーツが阪神淡路なので、逃げることはできないと思った。そこから10年経って、「これだけはやっておきたい」と思ったことが(本を書いた)最大の動機です。

――新型コロナの流行があり、東日本大震災のことはかなり忘れられています。原発の問題も忘れられている。メディアの責任ではあるが、同時に政治の責任でもある。

細野:正直、この本の出版を数社に持ち掛けたんですが、「今はコロナばかりだから」と断られました。ちょうど1年前から(発災)10年に向けて動き出したんですが、私の肌感覚と世間の肌感覚のずれはこの1年、すごく感じました。

――でも、コロナも原発も「科学と政治」という部分は共通する。

細野:そこはまさに一致する。ゼロリスクを求めたことの問題点です。あと、およそ科学的に分かっていることについて、言葉を濁すことの弊害。まさにワクチンがそうです。ワクチンを打つことが個人にとっても、社会にとっても必要だと言うこと。みなさんが打つ、打たないは自由と言わない方がいい。打ってくださいときちんと言うべき。そのうえで、リスクとベネフィットを説明する。打たないことで、違うリスクが出ることの説明をすべき。

そこが十分やりきれなかった反省が、処理水や食品の安全基準の問題でした。のち甲状腺検査が問題になった時も、リスクをどう考えるかということが非常に影響した。今につながる問題です。

――処理水は来年秋にもタンクが満杯になります。しかし、どうするか議論はまったく深まっていない。

細野:もっと早く決断すべきだったと思います。非常にリスクが大きい、という現状が伝わり切っていない。2月に東北で大きな地震があったが、恒久的な施設ではないので、処理しきれていない水が漏れる可能性があった。現場の負担も大きい。2人が現場で亡くなってもいる。それが伝わっていない。みんな「今後も大丈夫」と思っているが、そうではない。

これから、(福島第一原発)サイト内の大熊町側がいっぱいになる。双葉町側に置くとなると、(燃料)デブリを置く場所がなくなるので廃炉にも支障が出る。廃炉に支障が出るのは非常に大きな問題。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 8

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中