最新記事

米社会

デモ参加者射殺の18歳「無罪評決」でアメリカの分断がさらに広がる

The Implications of Kenosha

2021年11月29日(月)19時25分
アイマン・イスマイル

211207P42_BKU_02.jpg

昨年8月、銃を手に「自警団」気取りでケノーシャに乗り込んだカイル・リッテンハウス(写真の左) AP/AFLO

一方で「敵の報復」を恐れる極右もいて、彼らの警戒感は無罪評決で一層高まったと、クラークはみる。

「私が懸念しているのは、むしろそうした感情だ。それは以前からあったが、無罪評決で一段と強まった。リッテンハウスの有罪を主張する人たち、特にBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動の支持者たちが何らかの報復に出る、という警戒感だ」

ウィスコンシン州では11月21日にクリスマスパレードに車が突っ込む惨事が起きたが、この事件は一部の極右を震え上がらせた。

「容疑者が黒人で、被害者はおおむね白人だったため、これは黒人の逆襲に違いないと、極右は受け止めたのだ」と、ホルトは説明する。

この事件で逮捕された男は家庭内トラブルの通報があった現場から逃走中だったと警察が発表したが、その時には既に彼とリッテンハウスを結び付けるプロパガンダが広がっていた。

「彼らは(黒人や左派が)自分たちを襲撃すると思い込んでいる」と、ホルトは言う。

さらに始末の悪いことに、極右は「(敵に狙われやすい)イベントに積極的に参加して、『正当防衛の状況』に進んで身を置くことが愛国的な行為だと思い込んでいる」のだ。

必要なのは冷静な対応

いま警戒すべきはそうした右派の「愛国的行為」だと、ホルトはみている。

「リッテンハウスが保守系メディアにもてはやされ、ヒーロー扱いされると、それに憧れてまねをする連中が出てくる。特に自己顕示欲や承認欲求が強い若者は『俺もああなりたい』と思うだろう」

一方で、ホルトは左派の反応も懸念する。

「(極右の)銃撃に備えて銃で武装してデモに参加する人が増えれば、(平和的なデモであっても)一触即発の危険が高まる」

クラークも同意見だ。

「軍拡競争を研究してきた私には断言できる。両陣営で銃を持つ必要性を感じる人が増えれば、身を守れるどころか誰もが危険にさらされる」

ホルトもクラークもそうした事態を危惧しているが、左派活動家がすぐにも対応を迫られるような差し迫った脅威はないと口をそろえる。

無罪評決を受けて、右派が祝賀ムードに沸くなか、米銃所有者協会は新しいAR15攻撃用ライフルをリッテンハウスに贈呈すると発表。またリッテンハウスはドナルド・トランプ前大統領に会うためにフロリダ州の別荘を訪れ、温かなもてなしを受けた。

この状況では左派が極右の襲撃を警戒するのは当然だ。

しかし被害妄想に陥るべきではないとホルトはクギを刺す。

「私は人々の恐怖をあおろうとは思わない。危険を察知し準備するのはいいが、疑心暗鬼になるのは考えものだ」

相手がのぼせ上がっているときほど、冷静な対応が求められる、ということだ。

©2021 The Slate Group

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

スロバキアのフィツォ首相、銃撃で腹部負傷 政府は暗

ビジネス

米CPI、4月は前月比+0.3%・前年比+3.4%

ワールド

米大統領選、バイデン氏とトランプ氏の支持拮抗 第3

ビジネス

大手3銀の今期純利益3.3兆円、最高益更新へ 資金
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 5

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 8

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中