最新記事
中東

イスラエルのガザ侵攻めぐり世界でユダヤ憎悪事件が急増、ネット中傷や暴行

2023年11月2日(木)08時06分
米国のイスラエル支援に抗議する白人ナショナリスト団体「 NatSoc Florida」のメンバー

イスラム組織ハマスによる奇襲を受けたイスラエルの報復攻撃でパレスチナ自治区ガザの戦闘が10月に激化して以来、世界各地でユダヤ系市民に対する憎悪事件が急増している。写真は米フロリダ州レディー・レイクで21日、米国のイスラエル支援に抗議する白人ナショナリスト団体「 NatSoc Florida」のメンバー(2023年 ロイター/Joe Skipper)

イスラム組織ハマスによる奇襲を受けたイスラエルの報復攻撃でパレスチナ自治区ガザの戦闘が10月に激化して以来、世界各地でユダヤ系市民に対する憎悪事件が急増している。

米ロサンゼルスでは「ユダヤ人を殺せ」と叫ぶ男が一般家庭に押し入り、英ロンドンの公園では女の子が「臭いユダヤ人」だから滑り台から離れろと言われた。中国では、ユダヤ人を寄生虫や吸血鬼、ヘビになぞらえた投稿がソーシャルメディアで拡散し、何千もの「いいね」を集めている。

ユダヤ人の大規模コミュニティーがあるロンドン郊外ゴールダーズ・グリーンにあるシナゴーグ(ユダヤ教会堂)を訪れていたアンソニー・アドラーさん(62)は「第二次世界大戦以降でユダヤ人であることが最も恐ろしい時期だ。以前にも問題はあったが、私の生涯でこれほどひどいことはなかった」と話した。

アドラーさんはユダヤ人学校を3校経営するが、10月7日のイスラエル襲撃を受け、生徒が狙われることを恐れて2校を一時的に閉鎖し、全3校で警備を強化した。ユダヤ人に対する無差別攻撃を最も懸念しているという。

警察や市民団体が集計データを公表している米英仏独や南アフリカなどの国々ではユダヤ系市民を標的にした暴言やインターネット上の中傷、身体的暴力、ユダヤ教関連施設への落書きなどの事件が10月7日以降、前年比の数倍に激増している。

米英など一部の国では、イスラム嫌悪に関連する事件も増えている。

各国の対応さまざま

ユダヤ憎悪事件で最も強烈だったのは、ロシア南部ダゲスタン共和国の首都マハチカラで29日に、ガザ攻撃に抗議する数百人のデモ隊が空港に押し寄せ、イスラエルから到着した飛行機を襲撃しようとした事件だ。

ロシアのユダヤ人コミュニティー連盟の会長を務めるユダヤ教指導者(ラビ)のアレクサンドル・ボロダ氏は、ロシア系ユダヤ人が公然と攻撃されるまでに反イスラエル感情が高まったと嘆いた。

世界各地のユダヤ人コミュニティーでも緊張は高まっている。

南米アルゼンチンの首都ブエノスアイレスでは、有名ユダヤ人学校の生徒が、判別されやすいとの理由で制服を着用しないよう指導を受けた。他の学校はキャンプや校外活動を中止した。

米ニューヨーク州のコーネル大学では、「ユダヤ人生活センター」が爆破予告を含むネット上の脅迫メッセージを受け取ったため、周辺の警備が強化された。

南アフリカのヨハネスブルクでは、10月28日に親パレスチナ派のデモ隊が大規模ユダヤ人コミュニティーのある地域まで行進し、公共施設の壁に貼られたガザのイスラエル人人質の写真を剥ぎ取った。

反ユダヤ感情の高まりに対する各国の対応はさまざまだ。

米国や西欧の当局はユダヤ人コミュニティーへの強い支持を表明し、反ユダヤ主義を糾弾。関連地域の警備を強化する国もある。

イスラエル政府はロシア南部ダゲスタンの事件後、イスラエル国民に海外渡航予定を見直すよう促し、海外在住のイスラエル国民には警戒を強め、デモに近づかないよう求めた。

一方、政府がソーシャルメディアの不適切な投稿を日常的に検閲している中国では、ネット上にあふれる反ユダヤ主義的な書き込みを制限する措置が取られた形跡はない。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2023トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザで食料尽きる恐れ、ラファ作戦で支援困難に=国連

ワールド

旧ソ連モルドバ、EU加盟巡り10月国民投票 大統領

ワールド

米のウクライナ支援債発行、国際法に整合的であるべき

ワールド

中ロ声明「核汚染水」との言及、事実に反し大変遺憾=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中