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感染症対策

ゲイ・コミュニティーを描いた舞台『インヘリタンス―継承―』主演・福士誠治が語るエイズの今 3世代40年続くパンデミックとは

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2023年12月27日(水)11時00分
取材・文=堤 広志 撮影=平岩 亨

カライシャ・アブドゥル・カリム氏

エイズ対策で活躍するカライシャ・アブドゥル・カリム氏

アフリカで増加する思春期女性のエイズ

エイズはもともとアフリカが起源ともいわれる感染症である。長年の間に男性が用いる予防手段は開発された一方、女性が自らを守る手段はなかった。そう説くのはスペシャルセッション「アフリカのエイズとジェンダー」に登壇したカライシャ・アブドゥル・カリム氏(南アフリカ・エイズ研究プログラム・センター次長)だ。

カリム氏は、救命のための抗ウイルス治療を行い、女性たちが自分自身を守る予防アプローチを開発する研究を続けてきた。1年間に新たにHIVに感染する人は世界全体でまだ130万人に上り、毎日3500人が新たに感染していることになる。この新規感染者の約半数はサハラ以南アフリカで、そのうちの63%は思春期の少女や若い女性が占める。南アフリカでは、思春期の少女や若い女性の間のHIV感染の割合は、同世代の男性に比べて数倍高い。その背景には年上の男性から感染するジェンダー格差がある。経済力がないため、男性とセックスをしないと生活のサポートが得られないからだ。相手に避妊を求めたり、自分で予防する手段も限られている。
「10代の女の子が出産し、学校にも行けなくなる。人生の目標が変わり、多くの差別や偏見が生まれている」

カリム氏はそう語り、長いスパンで感染症対策を継承していくことが必須だと力説する。
「かつて、エイズ対策に集中しその前からあった結核対策をなおざりにした結果、薬剤耐性の結核が生まれた。収束していないのに終わったことと思って忘れてはならない。事実、南アフリカでは、40年間、エイズ対策に投資してきたおかげで、コロナが到来した時に新しい変異株を他国に先駆けて特定できた」と指摘する。

医療体制の継承なしにエイズの流行終結はない

続くパネル・ディスカッション「エイズの教訓を継承する」では、エイズ問題と闘ってきた世界のリーダーたちがそれぞれの知見を披露した。

参議院議員の川田龍平氏は、非加熱血液製剤によりHIVに感染し薬害エイズ訴訟で原告となった経験を振り返り語った。
「裁判で勝ち取ったエイズ治療体制があったからエイズと闘いここまで生きることができた。自分は日本に生まれたから長生きできたが、世界中でも解決すべき問題。そのためには多くの人々が関心を持ちムーブメントを起こさなければいけない」

グローバルファンドのダイアン・スチュアート部長

グローバルファンドのダイアン・スチュアート部長

エイズと闘うには、社会的関心と国際的な連携が必要だ。2000年のG8九州・沖縄サミットで議長国となった日本は、感染症対策を主要課題に取り上げ、初めて先進国がエイズをはじめとした感染症について真剣に語りはじめるきっかけづくりに大きな役割を果たした。そこから生まれたのが世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)。低・中所得国が行う三大感染症対策に資金提供をしている。

グローバルファンドのダイアン・スチュアート部長は「グローバルファンドは低・中所得国に、検査、保健人材育成、サプライチェーン、保健情報システムといったヘルスケアのツールを強化する支援をしてきた。これらが強固な基盤となり、コロナ対応においても活用されている」と紹介した。一方でスチュアート氏は公衆衛生をめぐる世界情勢が、複雑になっていることを明かした。
「治療の継続が大きな課題だ。気候変動による洪水や干ばつ、世界各地で起こっている紛争や戦争により、人が移動して感染症のリスクが増加する。ウクライナでは、元々は社会から追いやられた脆弱な人々に医療サービスを提供するために作られていたモバイル・ユニットを活用し、薬を配り治療の継続にあたっている」

薬を届けることの大切さでは、医薬品特許プール(MPP)事務局長のチャールズ・ゴア氏も同調する。MPPは製薬企業とライセンス契約を結び、低・中所得国向けにジェネリック医薬品を提供する国際機関だ。
「命が助かる薬があるのに、それを入手できないから死ぬなんてことが、21世紀の今、あってはならない。HIVではかなり解決できたが、この経験を活かし全ての病気でできるようにすべきだ」

厚生労働省の杉原淳氏(健康・生活衛生局感染症対策部)は「エイズの流行終結に向け世界中が動いている。翻って日本では患者数は減っているが、感染症対策は途中で止めれば感染者がぶり返す危険があることを、日本は結核で経験済み」と警鐘を鳴らす。さらに、コロナで経験したように感染症は一国だけで解決することは難しく、「国際的な連携が重要」と強調した。

国連が採択した「2030アジェンダ」には、2030年までにエイズの流行を収束させるという目標が設定されている。エイズ終息を達成するまでグローバルに連携していく決意があらためて確認された。


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グローバルファンド日本委員会
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舞台『インヘリタンスー継承ー』
https://www.inheritance-stage.jp/

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