コラム

「日本の人々が立ち上がる姿を何度も見てきた」...ジョージア大使が父から聞いた「震災の記憶」と能登半島地震への思いとは

2024年02月17日(土)10時00分
ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)
阪神淡路大震災1.17のつどい

BUDDHIKA WEERASINGHE/GETTY IMAGES

<直接的にも間接的にも多くの地震を経験してきた、日本育ちの大使。神戸での追悼式典に向かう前日に父から初めて聞かされた話、そして復興を支える2点について>

日本で暮らすなかで避けて通れないものの1つが地震だ。自然災害の中でも予期して備えることが特に難しく、日本列島周辺で発生する地震はその規模も大きい。

日本育ちの私も直接的にも間接的にも多くの地震を経験し、その被害の大きさにいつも胸が締め付けられる思いをしてきた。

自然災害は起こらないに越したことはない。しかし、その災害の中から垣間見えてくる、人々の勇気や希望は逆説的ながらも壮大なものだ。

今年、神戸で毎年開催されている「阪神淡路大震災1.17のつどい」に初めて出席した。あの1995年1月17日、私たち家族は広島で暮らしていた。

当時、私は7歳だったため、震災の記憶はさほど鮮明には残っていない。しかし今回、神戸に向かう前日に父に電話したときに初めて聞かされた話を紹介させてほしい。

阪神・淡路大震災の当日、広島大学の大学院生だった父は、研究室のテレビにクギ付けになる仲間たちのいつもとは異なる様子に、日本語が十分に分からないながらも、事の深刻さを理解したという。

そこで母と相談し、募金だけでもしたいと金融機関に義援金を納めたそうだ。もちろん当時は学生だったため、本当に心ばかりのわずかな額だった。

しかし、それからしばらくたってから、義援金に対するお礼の手紙が両親の元に届いた。旧ソ連生まれの父は、お金の流れについては一般市民があずかり知らぬ世界で育っている。

そんな父の元に自分のお金が必要とされている人のところにしっかり届けられ、活用されているという知らせが来たことは驚天動地のことであった、と。困難や苦境にあっても、お礼を欠かさない、その心配りに胸を打たれたと話してくれた。

「優しさ」と「強さ」は似ている。この2つがあったからこそ、ここまで復興を遂げたのだと、参加した「阪神淡路大震災1.17のつどい」で考えていた。そして、ジョージア語なまりの日本語で「さすが日本人!」と言う、いつもの父の声が頭の中に響いた。

大学時代に東日本大震災を東京で経験したことには前回の本コラムでも言及したが、実は今回、能登半島地震も間接的ながらに経験した。

1月1日、私たち家族は新幹線で金沢に向かっていた。昨年10月、仕事で行った北陸に次は家族をぜひ連れて行きたいと思い、12月初旬に石川県への家族旅行を決めていた。

他の予定の兼ね合いから皇居で開催された「新年祝賀の儀」に出席後の出発とした。「もう、この日程で予約してもいいよね?」と言う私に「いいわよ。でも、何があるかは分からないよね」と妻が返してきた言葉の意味を、今となっては考え込んでしまう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story