コラム

OpenAIとMicrosoftの蜜月は終わった?

2023年09月07日(木)15時10分
OpenAIとMicrosoftのロゴ

Ascannio-Shutterstock

<AI業界の勢力図が急速に変動か──OpenAIが企業向けプランを発表し、従来のパートナーであったMicrosoftとの関係に変化の兆しが>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

ChatGPTを開発したOpenAIが、自社開発のAIモデルのセキュリティ面などを大手企業向けに強化させた「企業向けプラン(Enterprise Plan)」を発表した。これまでOpenAIは基本的な技術を開発し、それに追加機能を加えて発売するのは、OpenAIの大株主でありパートナー企業であるMicrosoftの役割だった。いわばOpenAIがメーカー、Microsoftは小売店という関係であり、メーカーは直販店を作って小売店の邪魔をしない、というような関係に思われていた。そういう強力なスクラムを組むことで、OpenAIとMicrosoftは宿敵Googleに対抗する。AIの業界勢力図をそう読む意見が主流だった。ところがメーカーであるOpenAIが、小売店のMicrosoftの企業向けプランと同等の商品の直販を始めたわけだ。OpenAIとMicorosoftのスクラム状態にひびが入り始めたのだろうか。

今回の発表だけを見れば、OpenAIが一方的に不義理を働いているように見えるかもしれないが、実はその前にMicrosoft側が不義理とも言える動きに出ている。OpenAIのAIモデルの強力なライバルであるMeta(旧Facebook)のオープンソースのAIモデルの取り扱いを始めたのだ。OpenAIのAIモデルは今のところ技術的に業界の最高峰とみなされているが、Metaのモデルは一定のユーザー数まで無料で利用、改良できるので、セキュリティ面を考慮して独自のAIモデルを持ちたい大企業などがMetaのモデルを利用し改良し始めた。この動きに、Microsoftはすぐさま対応、同社のクラウドサービスAzure上でOpenAIのモデルに加えて、Metaのモデルの提供も始めた。いわば1つのメーカーの製品だけを専門に売っていた小売店が競合するメーカーの製品も取り扱い始めたようなものだ。

当初、MicrosoftとMetaは優先的パートナーシップを結んだと発表したので、OpenAI、Microsoft、Metaの3社連合ができたかのように解釈する人がいた。Googleは窮地に追い込まれたように見えたわけだ。しかし実際にはMetaは、Microsoftに続いて、AmazonにもAIモデルを提供。さらには今回、GoogleにもAIモデルを提供、クラウド大手3社との等距離外交に入ったようだ。

さすがにGoogleがGoogleクラウド上でOpenAIのモデルを提供してはいないが、OpenAI、Microsoft連合対Googleという単純な図式は終わったようだ。AIの急速な進化を受けて、昨日の友が今日の敵にもなりかねない。最終的には頼れるのは自分だけ。最近のテック大手の動きを見ていると、そんな風に思えてきた。

このほかの今週のニュースには次のようなものがあった。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story