コラム

マクロンとルペンの決戦につきまとうプーチンとウクライナ戦争の影

2022年04月11日(月)14時23分

第2回投票(決選投票)に駒を進めることになったマクロン候補とルペン候補 REUTERS/Pascal Rossignol

<再びマクロン対ルペンの決選投票となったフランス大統領選挙。それに微妙な影を落とすのがウクライナ戦争だ。戦争の引き金を引いたプーチンのロシア・ナショナリズムは、ルペンに代表されるヨーロッパ各国内の反EUナショナリズムと根っこでつながっている。マクロンとルペンとの対決の構図は、単なる一国内の大統領選びという問題にとどまらず、ヨーロッパに蔓延しつつある排他的ナショナリズムの問題と重なり、ウクライナ問題とも連動する。>

4月10日に行われたフランス大統領選挙第1回投票の結果、中道派の現職、マクロン候補と、反EU・反移民を掲げる右翼ポピュリスト、ルペン候補がそれぞれ1位(得票率28.3%)と2位(同23.3%)を占め、24日に行われる第2回投票(決選投票)に駒を進めることになった。

これは前回2017年の大統領選挙の再現だ。基本的構図も変わらず、マクロンのリベラル・グローバリズムとルペンの排他的ナショナリズムとの対決となる。両者がお互いを批判する時に使う表現を借りていえば、「野蛮なグローバル化を無慈悲に推進する冷血なエリート」(ルペンのマクロン評)対「グローバル化とEUに背を向け自国民第一主義の殻に閉じこもる極右ポピュリスト」(マクロンのルペン評)の戦いということだ。

ナショナリズムを巡る争い

これは同時に、ヨーロッパに再び蔓延しつつあるナショナリズムを巡る争いでもある。
かつて第二次世界大戦をもたらしたヨーロッパ各国のナショナリズムは、戦後、地域統合による国家エゴの克服を目指したEC/EUによって制御されてきたが、近年亡霊のように蘇り、ヨーロッパ中に蔓延しつつある。EU各国に広がる反EUの右派・左派ポピュリズムは、いずれも排他的ナショナリズムを志向する。

ウクライナ戦争も、端的に言えば、二つの排他的ナショナリズム、すなわちロシア系住民居住地域のロシアへの併合を目指すロシア・ナショナリズムと、それを頑なに拒絶し阻止しようとするウクライナ・ナショナリズム(プーチンの表現によれば「ナチ」)との衝突だ。

こうしたヨーロッパの排他的ナショナリズムの代表格がフランスのルペンだ。ルペンの反EU・反移民の主張は、主権主義、国民国家nation-stateの再構築による強い国家と自国民第一主義の表れに他ならない。NATO統合軍事機構からの離脱を主張するのも同様だ。

リベラル・グローバリズムの守護者マクロンは、こうした排他的ナショナリズムに対し防波堤となるよう、ルペンに打ち勝たなければならない。前回2017年選挙の場合はマクロンが2千万票を獲得し、1千万票のルペンをダブルスコアで破ったが、今回も同じようにマクロン楽勝となるのだろうか?

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より東京外国語大学教授、2019年より現職。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story