コラム

フランス外交には女性改革が必要だ

2019年05月23日(木)14時45分

フランス女性には、大使になれば世界中で男女差別をひっくり返すパワーと魅力があるのに(写真の前列、右から3番目はマルレーヌ・シアッパ首相付男女平等・差別対策担当副大臣。男女平等についての会議の後、マクロン夫妻やゲストのエマ・ワトソンらと共に 2019年2月19日)

<フランスは日本よりリベラルで、女性も強いと思ったら大間違い。とくに男性優位で悪名高いのが外務省。教養もユーモアもあるフランス女性がもっとたくさん外交官になれば、世界中で女性の地位を向上させてくれるだろう>

5月16日のこと、フランスの権威ある左派系全国紙『リベラシオン』の一面では、白いハイヒールが目立ちました。この日の特集の写真です。退屈な背広を着た男性陣の真ん中に、白いドレスと白い靴の女性が立っています。フランス政治の光と影、というニュアンスでしょうか。皮肉たっぷりの見出し「『ガラスの天井』省」とは、ある程度出世すると女性は見えない天井にぶつかってそれより上には行けない、という外務省の体質を皮肉った言葉です。例えば、外務省で働くフランス外交の古き良きエリートたちのうち、大使として世界中に派遣された女性はたった3割しかいないのです。

dabbadie190523.jpg

5月16日付けリベラシオン紙の一面 (筆者撮影)

フランスでは19世紀末から女性がエリート学校に通いはじめ、早めに投票権も得たものの、フェミニズム運動が現れたのは1960年代と遅めでした。1970年代になっても、シングル・マザーが社会批判を浴びるなど、まだまだ男性中心のカトリック社会が続いていました。1980年代にフランソワ・ミッテラン大統領は一瞬だけフランス史上初めて女性を首相に指名しましたが、彼女は男性中心の政界で孤立し、辞めてしまいました。終わってみれば、彼女をサポートする組織もなく、先駆者と呼ばれたいミッテランの自己PRに過ぎませんでした。

マクロン夫妻も官僚に負けた

エマニュエル・マクロン大統領とブリジット夫人は仏政界の男尊女卑を改革してくれる人物と期待されましたが、官僚の壁は厚かったようです。マクロンの支持率は、就任当初の60%が今では30%まで落ちてしまいました。原因の一つは、「雄弁だが実行力がない」ことです。

そのマクロン政権の限界を象徴しているのが、他ならぬ外務省です。フランスのモットーである「自由、平等、博愛」はマクロンが現代風に「モビリティ(年齢を問わない社会出世)、パリティ(男女平等)、ダイバーシティ(多民族国家)」と言いたがりますが、どちらにしてもうまく行っていません。女性はガラスの天井にぶつかり、エリート学校では純粋なフランス人以外の学生は今も暗黙の差別を受けています。

プロフィール

フローラン・ダバディ

1974年、パリ生まれ。1998年、映画雑誌『プレミア』の編集者として来日。'99~'02年、サッカー日本代表トゥルシエ監督の通訳兼アシスタントを務める。現在はスポーツキャスターやフランス文化イベントの制作に関わる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、FRB当局者発言を注視 円

ビジネス

米国株式市場=S&Pとダウ上昇、米利下げ期待で

ワールド

米、イスラエルへの兵器輸送一部停止か ハマスとの戦

ビジネス

FRB、年内は金利据え置きの可能性=ミネアポリス連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが...... 今も厳しい差別、雇用許可制20年目の韓国

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 6

    翼が生えた「天使」のような形に、トゲだらけの体表.…

  • 7

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 8

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 9

    ハマス、ガザ休戦案受け入れ イスラエルはラファ攻…

  • 10

    プーチン大統領就任式、EU加盟国の大半が欠席へ …

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story