コラム

「ほぼ万年与党」だった英保守党が大ピンチ 凋落の理由と新首相スナクのこれから

2022年10月28日(金)14時35分
リシ・スナク

英保守党は迷走の末にスナクを新首相に決めたが(10月25日、ロンドン) HANNAH MCKAY-REUTERS

<イギリス新首相にリシ・スナクが決定したが、選挙にも経済にも強いはずの保守党は迷走続きで次の総選挙に勝つ気がしない>

イギリスでは、保守党が選挙で勝つ傾向にある。英保守党は時に「当然の与党」と呼ばれる。(労働党の)トニー・ブレアがかつて3度の総選挙で勝利したのは、保守党が長期的に政権を(時には連立を組みつつ)維持し続け、その合間合間に労働党が数年政権を握る、という過去100年のパターンの中で、あくまで例外的な出来事だった。

僕が思うに、この保守党優位には理由がある。1つは単純に、イギリス人が本質的に保守的であり、むやみやたらに急進的な変化に票を投じないということ。2つ目は、保守党の基本方針がミドル・イングランド(典型的なイギリス人)の考え方と調和しているから。つまり、法と秩序を重んじ、寛大な国家福祉システムよりは低い税率を選ぶ、などだ。

3つ目に、保守党は概して経済に強いとの評判があること。そして4つ目に、党として彼らは団結してうまくやってきたということ。時には党内の主要人物がおおっぴらに反旗を翻すことがあっても、保守党はその亀裂を修復し、前へ進んだ。労働党が経験してきたような、長期の分断や深刻な内紛は起こりにくかったのだ。

明らかに、今の保守党は3つ目と4つ目のポイントでかなりのヘマをしている。ポンドは下落し、減税策を打ち出しては撤回し、内輪もめのせいで自分たちでも何をやっているのか分からず方向性も一致できていないような印象を与えている。

この状況は、ジョン・メージャー元首相の政権末期にやや似ている。当時はポンドが暴落し(暗黒の水曜日)、不動産価格が急落し(多くの人がローン残高より資産価値のほうが低くなる「マイナス資産」に陥った)、保守党は分断された(主にEU拡大をめぐる問題のせいで)。

労働党に大敗したメージャー政権の末路

次の総選挙までに保守党が勢いを取り戻せるとはなかなか予想できない。「分別ある」方法は、最も主流派のリーダーであるリシ・スナク新首相が指揮を取り、メージャーがやったのと同じように対処することだ。現状は正常であって事態は制御できているというように振る舞い、有権者にもそのように考えてもらえるように期待すること。可能な限り総選挙を先延ばしにすること(考え得る限り保守党にとって最悪のタイミングで解散総選挙を求める声に耐え忍ぶことになるだろう)。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story