最新記事

経済

今年のノーベル経済学賞は役に立つ

難解な経済理論でなく、実用的な知識を広めた3人のアメリカ人が受賞

2013年10月16日(水)16時59分
トマス・ミュシャ

エール大学教授のシラーは「住宅価格指数」で有名 Michelle McLoughlin-Reuters

 経済学者はしばしばいわれなき批判を受ける。たいていはこんな風に----。

・経済学者は間抜けだ。

・経済学者は普通の人間には理解できない難解なチャートやグラフを作って悦に入っている。

・「経済学者は『一方では......しかし他方では』とばかり言う」というハリー・トルーマン元米大統領の言葉からも分かるように、経済学者の意見は仮定次第で大きく変わる。

 こうした批判もあって(もちろんどれも多少は真実だ)、経済学者の言動は何かとパロディーにされやすい。しかし、経済学が役に立つこともあると私たちに教えてくれたのが、今週発表されたにノーベル経済学賞。受賞者はシカゴ大学のユージーン・ファーマ教授とラース・ピーター・ハンセン教授、そしてエール大学のロバート・シラー教授だ。

日々使われる経済学を確立

 この3人のアメリカ人は、日々利用され、多くの人々の生活に影響する研究と知識を生みだすという、大半の経済学者の夢を実現した。要するに、ときに間抜けで、難解な経済学の世界を、身近で実用的で役立つものにしたのだ。

 ファーマが60年代に行った市場の効率性に関する研究は、当時一般的だった考えに反して、株式や債券の価格は資産価格についての最新情報を反映することを示した。有名な「効率的市場仮説」だ。だとすれば、株式売買のタイミングを測ろうとしたり、個別株の銘柄を選定することさえ無意味だ。結局、市場には勝ち目がないからだ。

 ファーマの研究は、株価指数(インデックス)連動型ファンドが人気を集めるきっかけとなった。「スタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数」のような株価指数に値動きに連動することを目指して、ポートフォリオを運用する投資手法で、今では多くのインデックスファンドが販売されている。

 ハンセンは、「一般化モーメント法」を確立。資産価格の形成に関する各変数の関係についての考え方を根本的に変えた。彼の手法もまた、日々使われている。

 市場の不安定性に注目したシラーは、人々の行動は常に理性的な訳ではないと分析。行動経済学の人気の火付け役となった。ただしシラーについてよく知られているのは、住宅価格とバブルに関する研究だろう。「S&Pケース・シラー住宅価格指数」は今では、アメリカの住宅業界の指標として最も信頼度が高い指標の一つになった。経済学者や投資アナリスト、ジャーナリスト、住宅購入者までが幅広く活用している。

 彼らの理論はどれも、難解で、ぼんやりしていて、謎めいた経済学の世界を越え、経済を現実世界のど真ん中に投げ込んだ。3人ともパロディーのネタにはできそうにないのが残念だが。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

南ア、イスラエルのラファ攻撃「阻止する必要」 国際

ビジネス

マイクロソフト、中国の一部従業員に国外転勤を提示

ビジネス

先進国は今のところ賃金と物価の連鎖的上昇回避、バー

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ロシアとの武器取引否定 「ばかげ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中