最新記事
金融

融資審査に「心理統計テスト」活用、AIアルゴリズムでマイクロファイナンスの新たな地平へ

2023年11月24日(金)11時30分
※TOKYO UPDATESより転載
小規模事業者向けの融資

ビー・インフォマティカはアジア全域、さらにはアフリカで小規模事業者向けの融資を行うことを目指している(写真はイメージです) ArtemisDiana-Shutterstock

<ビー・インフォマティカ株式会社は東南アジアを中心に新たな人工知能(AI)を活用した手法でマイクロファイナンス(小口融資)事業を展開。その取り組みにより東京都の主催する「東京金融賞2022」(金融イノベーション部門)を受賞した>

同社を設立したのは、ノーベル賞も受賞したバングラデシュのマイクロファイナンス機関であるグラミン銀行に啓発されたためだった。

1970年代半ば、バングラデシュの大学で経済学を教えていたムハマド・ユヌス氏は、高利貸しによって貧困にあえぐ職人たちがキャンパスの近くに何十人もいることを知った。現実に苦しむ人々がすぐそばにいるというのに、教室で経済理論を講義していることにむなしさを覚えた彼は、行動しなくてはならないと決意した。

彼は42人の職人・個人事業主にあわせて27ドルという非常に少額の融資を実施。これがマイクロファイナンスの誕生につながり、ユヌス氏は世界に大きな影響を与えることとなった。

ビー・インフォマティカは、このアイデアをさらに推し進めようとしている。AIのアルゴリズムを活用し、十分なサービスを受けていない小規模事業者向けの融資を促進している。

同社の共同創業者である稲田史子氏は東京の大学で学んでいたころ、途上国でソーシャルビジネスに従事するという夢を抱いた。しかし、日本銀行や楽天証券など日本の金融業界で働くうちに、彼女は「この夢のことをほとんど忘れていた」と言うが、2006年にユヌス氏とグラミン銀行が「底辺からの経済的・社会的発展の創造」を目指す活動が評価されてノーベル平和賞を受賞したことで、再びこの夢に目覚めた。

そして、稲田氏は東南アジアでマイクロファイナンスに携わる東京拠点のNGOで働きはじめた。「それから仕事を辞め、人生とキャリアを大きく変える決断をしました」。彼女はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で地域経済開発学の修士号を取得。その後、バングラデシュの大手マイクロファイナンス機関でNGOのBRACで働きはじめた。

融資の決定に心理統計テストを活用

2016年にはバングラデシュの首都ダッカでテロ事件が発生するなど、さまざまな困難を経験しながらも、テックやソーシャルビジネス、スタートアップの世界の人々と共に働きはじめた。この時期、稲田氏は後にビー・インフォマティカを共に設立することになる技術者、M・マンジュール・マフムッド氏と出会う。「アジア全域でデジタル・マイクロファイナンスを広めたい」という点で考えが一致した。

2019年、2人はマレーシアのクアラルンプールで会社を立ち上げた。「マレーシアを拠点に選んだ理由は、インターネットの普及率が約99%、スマートフォンの普及率が約90%と、デジタルビジネスを展開するのに非常に適した環境があることです。人口は約3,300万で、若い世代も多い。国がそれほど大きすぎず、小さくもないという点も丁度良かったのです」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB当局者内の議論活性化、金利水準が物価抑制に十

ワールド

ガザ休戦合意へ溝解消はなお可能、ラファ軍事作戦を注

ワールド

ガザ休戦合意に向けた取り組み、振り出しに戻る=ハマ

ビジネス

米住宅供給問題、高水準の政策金利で複雑化=ミネアポ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 9

    「一番マシ」な政党だったはずが...一党長期政権支配…

  • 10

    「妻の行動で国民に心配かけたことを謝罪」 韓国ユン…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 7

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中