最新記事
映画

再会した幼馴染と現在の夫の間で...映画『パスト ライブス』、胸が張り裂けそうなエンディングの謎

Saying Goodbye to the Past

2024年4月5日(金)19時14分
スー・キム
セリーヌ・ソン監督の『パスト ライブス/再会』

ニューヨークで24年ぶりに再会したノラとヘソンは互いの思いを確かめる COPYRIGHT 2022 ©TWENTY YEARS RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED

<幼なじみの運命の人との再会に複雑な思いが交錯。韓国出身セリーヌ・ソン監督が、実体験に基づく作品『パスト ライブス/再会』の意味を語る>

ニューヨークの、とあるバー。カウンターに座った女性の両隣には、友人でも他人でもない男が2人。誰にとってもすごく特別な夜だ。

これは『パスト ライブス/再会』で衝撃の監督デビューを果たしたセリーヌ・ソンの実体験であり、24年の歳月を隔てて再会を果たした幼なじみの男女の深い「因縁」を描く映画の原点でもある。

エンディングは謎めいていて、主人公のノラ(グレタ・リー)と初恋の相手ヘソン(ユ・テオ)、そして現在の夫アーサー(ジョン・マガロ)の心の内が語られることはない。胸が張り裂けそうなシーンだけれど、誰もが最後に、自分の望んでいたものを手に入れる──監督のソンは本誌にそう語った。

作中のノラとヘソンは幼なじみで引かれ合っていたが、ノラは12歳で韓国を離れてカナダに移住した。監督のソンも幼い時に韓国からカナダに渡り、大人になってからニューヨークに移り住んだ。

そしてある晩、「私はバーにいて、韓国から訪ねてきて韓国語しか話せない幼なじみの男と、英語しか話せない今の夫の間に座っていた」。その瞬間、作品のインスピレーションが湧いたという。

映画の後半でノラとヘソン、アーサーの3人は同じバーに戻り、ああこれが「イニョン」というものかと納得する。イニョンは韓国語で「因縁」の意。そう、この2人は深い縁で結ばれていて、前世でも来世でも出会う運命なのだ。

謎めいたラストシーン

映画化の何年も前に、ニューヨークのバーで幼なじみと今の夫の言葉をせっせと通訳していたとき、ソンは気付いたという。

「私は言語と文化の壁を越えて行き来しているんだ、私自身の内面にある2つのパートを行き来しているんだと......。自分は同時に2つの異なる存在であり、相手によって別の自分になっている。けれど、どちらの存在も自分なの」と彼女は言った。

「すごく特別な感覚だった。なんだか、自分の過去と現在と未来をいっぺんに見ているみたいな感じで」

カウンターバーでの濃密なシーンの先には、謎めいたラストシーンが待っている。そこでは、ノラもヘソンもアーサーも「望んでいたものを手に入れる」らしい。

ヘソンは韓国の首都ソウルから、13時間もかけてニューヨークへ飛んできた。「12歳の少女としてしか覚えていない女性にもう一度会って、過去の扉を閉めるため」だった。

ラストシーンでは、歩道で向き合うノラとヘソンが恍惚とした表情で見つめ合い、空港行きのタクシーを待つ姿が映し出される。2人は無言で熱い抱擁を交わし、最後にヘソンがノラに言う。「じゃ、また(来世で)会おうね」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中