最新記事

日本政治

「空疎ないら立ち」を解消する「政治回路」の不在

AN EXTREME IRRITATION

2022年7月9日(土)22時30分
北島 純(社会構想大学院大学教授)
号外

KIM KYUNG HOON-REUTERS

<テロにカタルシスを得たのは犯人だけ。政府や社会に対する市民の不満や閉塞感を受け止めるのは、本来であれば、野党の役目。しかし現状、その役割を十分に果たせていない。私たちはどうやって喪失感を克服するのか?>

7月8日の白昼、安倍晋三元首相が凶弾に倒れた。投開票日を2日後に控えた参院選の最終盤、奈良市の大和西大寺駅前で応援演説を始めた安倍元首相に背後から近づいた男が「自家製銃」を発砲。振り向いた安倍氏に再び放たれた「銃弾」が致命傷を負わせた。

奈良県立医科大学附属病院に搬送されたときは既に心肺停止状態で、昭恵夫人が駆け付けた後の午後5時3分、死亡が確認された。選挙期間中の暗殺という突然の政治テロに、日本社会は大きな衝撃と深い悲しみに包まれている。令和日本における最大の政治的悲劇だ。

日本は銃器弾薬の所持が厳しく制限された「比較的安全」な社会であることが外国でも知られている。戦前の歴史をひもとけば、ハルビンの伊藤博文暗殺事件(1909年)や東京駅の原敬首相刺殺事件(1921年)、五・一五事件(1932年)や二・二六事件(1936年)がある。

しかし、戦後日本で首相・党首クラスの政治家が暗殺された例はまれで、東京・日比谷公会堂の浅沼稲次郎(社会党党首)暗殺事件(1960年)が想起されるくらいだ。令和の時代にこのような政治テロが発生すると想像していた者は、国の内外を問わず少なかっただろう。
20220719issue_cover200.jpg

殺人容疑で逮捕された山上徹也の犯行動機や思想信条の詳細はまだ不明だ。海上自衛隊に勤務していたとはいえ20年前から3年間だけ。宗教団体との関連で安倍元首相を襲撃したとも報じられているが、もし真実であるとすると、その発想の虚無性と短絡性は驚くばかりだ。

犯行前の様子が写り込んだ動画を見る限り、一国の首相経験者を暗殺しようとする者とは思えないほど落ち着いて見えるが、それと同時に「空疎ないら立ち」を募らせたような表情が見て取れる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=

ワールド

北朝鮮が短距離弾道ミサイル発射、日本のEEZ内への

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中