最新記事

日韓関係

「韓国は盗品すら返さない国という風評を危惧する声も」......対馬から盗まれた仏像、韓国の反応とその顛末

2023年2月14日(火)17時03分
佐々木和義

盗難仏像の返還が外交問題に発展した...... KBS News-YouTube

<対馬から韓国に持ち込まれた仏像の所有権を巡る裁判、文在寅政権下の一審は韓国寺院の主張を認める判決を下したが、尹政権下の二審は、所有権は日本の寺院にあるという判決を下した。裁判は日本対韓国ではなく、韓国政府対韓国仏教で、最高裁で争われる......>

長崎県対馬市の観音寺から盗み出され、韓国に持ち込まれた仏像の所有権を巡る裁判で、韓国の大田高裁は2023年2月1日、所有権を主張する浮石寺(忠清南道瑞山市)の訴えを棄却した。

浮石寺は同10日、判決を不服として最高裁に上告した。

2012年10月、韓国人窃盗団が仏像を韓国に持ち込んだ

仏像は高さ50.5センチ、重さ38.6キロの観音坐像で、2012年10月、韓国人窃盗団が韓国に持ち込んだ。文化財の価値に比べて管理が緩いという情報を得た窃盗団は対馬に遠征。海神神社から「銅造如来立像」(国指定重要文化財)、観音寺から「観世音菩薩坐像」(長崎県指定有形文化財)、多久頭神社から「大蔵経」(長崎県指定有形文化財)を盗み出した。

盗難文化財は通常、税関等が押収して返還されるが、釜山税関が複製品だとした窃盗団の虚偽申告を鵜呑みにしたとみられている。

盗難被害の届け出を受けた日本の警察は、同年12月、インターポールを通じて韓国に協力を要請。韓国警察は前科56犯、当時68歳の男性ら4人の韓国人窃盗団を検挙し、仏像2体を押収したが、大蔵経は行方がわからなくなっていた。

盗難仏像の返還が外交問題に発展した

盗難仏像の返還が外交問題に発展。韓国検察は15年7月、韓国内で所有権を主張する寺院等がない海神神社の「銅造如来立像」を返還したが、浮石寺が所有権を主張した「観世音菩薩坐像」は返還が見送られ、大田市の国立文化財研究所に保管されている。

観世音菩薩坐像の像内遺物から1330年頃、瑞州の浮石寺に奉納されたと読み取れる文が見つかっており、浮石寺は倭寇に略奪されたと主張する。韓国検察は略奪を立証する資料はなく、また700年前の浮石寺と現在の浮石寺が同一かどうか立証できないと反論した。

日本や米国に現存する高麗時代の仏像や仏画のなかには、倭寇が略奪したものや秀吉軍が持ち帰ったものもあると見られるが、李氏朝鮮の仏教弾圧を避けるため流出したものも少なくない。観世音菩薩坐像が観音寺の所蔵となった経緯を示す資料はないが、観音寺の田中節孝前住職は、李氏朝鮮時代の仏教弾圧から守るため対馬に持ち込まれたと語っている。

2017年地裁は、「仏像を韓国に引き渡す義務がある」

浮石寺が「観世音菩薩坐像」の引き渡しを求めた訴訟で大田地裁は2017年1月、原告の訴えを認める判決を下した。「盗難・略奪によって対馬に移されたと推定される」「高麗史にも仏像が製作された1330年以降に倭寇が瑞山地域に侵入した記録があり、略奪の根拠とみることができる」とし、「歴史的・宗教的価値を考慮すると仏像を浮石寺に引き渡す義務がある」と結論づけた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏と性的関係、ポルノ女優が証言 不倫口止め

ビジネス

アマゾン、シンガポールで1.3兆円投資 クラウドイ

ワールド

トランプ氏公判を無期延期、機密文書持ち出し 米地裁

ビジネス

米オキシデンタル、第1四半期は利益が予想上回る 原
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 6

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 10

    単独取材:岸田首相、本誌に語ったGDP「4位転落」日…

  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 3

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 4

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 5

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 6

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 7

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中