最新記事
韓国

韓国政治がスキャンダルに沈む...尹錫悦大統領の「ディオール論争」と、野党代表の「不正・収賄疑惑」

Political Mess in Seoul

2024年2月21日(水)20時53分
キム・ヒョンア(オーストラリア国立大学名誉准教授)
韓国の尹錫悦大統領

妻のスキャンダルをめぐり与党内からも批判が生じている尹大統領(右) KOREAN PRESIDENTIAL OFFICEーREUTERS

<4月の総選挙と次期大統領選を前に、どちらもスキャンダルにはまった韓国の与野党が国民の激しい反発に直面している>

韓国政界の「ゼロサムゲーム」は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の妻がクリスチャン・ディオールのバッグを知人から受け取ったという「金建希(キム・ゴンヒ)リスク」をめぐって泥沼状態に陥っている。皮肉なことにこのスキャンダルのせいで、2027年の大統領選の前哨戦となる4月10日の総選挙を前に尹と与党「国民の力」だけでなく、最大野党「共に民主党」もリーダーシップが試されている。

国会で過半数を握る民主党は、金に対する捜査を行う特別検察官を任命する法案を可決した。それに対し、尹が1月上旬に拒否権を行使したことで、与党支持者の間でも金に対する疑念が高まっている。

尹政権と与党は、22年5月の就任以来、30%台半ばで推移する尹の支持率の低さに悩まされている。国民の不満は、昨年10月に行われたソウル市の区長補欠選挙で与党の大敗を招いた。それを受けて尹は、「国民は常に正しい」と異例の早さで謝罪。国民の力は、韓東勲(ハン・ドンフン)法相(当時)を暫定的な党トップの非常対策委員長に任命した。

総選挙は接戦となる見込みで、かつてなく予測不可能だと識者らは指摘する。多くの専門家は、与党の最大の問題は尹にあると考えている。

なによりも、尹の独善的な政治手法が問われている。それは党との「主従」関係(尹が「主人」だ)だけでなく、大統領夫人による「権力の私物化」の疑惑についてもだ。

与党の「尹錫悦リスク」

エムブレインパブリックなど4つの調査機関が共同で実施した世論調査によると、尹が特別検察官を任命する法案に拒否権を行使したことは「誤った判断」だと回答者の65%が答えた。

この調査結果は、いわゆる「ディオール論争」に対する強い国民感情を反映している。金は、在米韓国人牧師から高価なディオールのバッグを受け取るところを隠し撮りされ、その映像をリベラル系ネットメディア「ソウルの声」が昨年11月にYouTubeで公開した。尹はこれをはねつけたが、金に謝罪を求める声が与党内に広がり、尹と韓が真っ向から対立した。

尹にとっての「金建希リスク」は、与党にとっての「尹錫悦リスク」になっている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、急激で大幅な利下げの必要ない=オーストリア

ビジネス

ECB、年内利下げ可能 政策決定方法は再考すべき=

ビジネス

訂正(7日配信記事)-英アストラゼネカが新型コロナ

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グラフ」から強さを比べる

  • 4

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 5

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増す…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中