コラム

「民進党分裂」の代償は日本政治にとってあまりに大きかった

2023年06月07日(水)14時49分
小池百合子、前原一誠、希望の党、石戸諭

前原(右)は小池の勢いに乗ろうとしたが(2017年)ISSEI KATO―REUTERS

<忘れられたニュースを問う石戸諭氏のコラム。政権交代可能な野党が日本から消え、今に至る野党の劣勢を決定づけた民主党系勢力の分裂はどこが分かれ道だったのか、振り返ります>

厳密に言えば「忘れられた」というより、触れられることさえなくなったニュースかもしれない。旧民主党(民進党)系の分裂劇である。2017年衆院選に臨むため、民進党代表の前原誠司は小池百合子率いる「希望の党」との合流を打ち出した。

その前後、筆者は前原や立憲民主党を立ち上げることになる枝野幸男らのインタビューを重ねていたのだが、いま考えても彼らは党内の事前のすり合わせを明らかに欠いていた。

「希望」は最右派も含む、ごった煮要素が強い政党で、政策の一致も、まともな組織もなく、持っていたのは「勢い」だけだった。民進党内のリベラル派は公認しないという方針を打ち出すと、頼みの勢いもすっかりしぼんでしまい国政でなんら爪痕を残せないまま終わりを告げた。

目先の勢いに賭ける前原の合流論は、決定的な悪手だった。だが、当時彼が掲げていた現実的な安全保障論、そして共産党と組んで左派層の有権者から票を取るよりも、中道から票を取りに行くという考えそのものは間違っていたとは思えない。

歓迎された野党共闘の落とし穴

時代を振り返ってみよう。15〜16年にかけてSEALDsを中心とする若い世代の政治運動が高まっていた。既存の市民運動も彼らを頼りにして、政界にプレッシャーをかけていった。その1つが「野党共闘」だ。自民党が組織票を持つ公明党と組んでいる以上、野党も一定の支持基盤を持つ共産党と野党ブロックを組むべきというのが彼らの理屈だった。

一見、筋は通っている。だが現実の審判はどうだったか。旧民主党リベラル派を中心にした立憲民主党の結成を運動家たちは歓迎した。SEALDsの中心にいた人物は私の取材に「むしろ、自民党に近い人たちが出ていったことで選挙を戦いやすくなった」と興奮気味に語っていた。

だが、実際のデータや選挙で示されたのは、立憲は共産と組んだことで有権者から左派と見られるようになっていったという事実だ。立憲の政策への評価は決して悪くはないが、有権者の旧民主党に対する拒否反応はいまだに強く、そして無党派層の野党共闘路線への支持は薄い。

プロフィール

石戸 諭

(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター。1984年生まれ、東京都出身。立命館大学卒業後、毎日新聞などを経て2018 年に独立。本誌の特集「百田尚樹現象」で2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を、月刊文藝春秋掲載の「『自粛警察』の正体──小市民が弾圧者に変わるとき」で2021年のPEPジャーナリズム大賞受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)、『ニュースの未来』 (光文社新書)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story